その三十七 こいびとってなに?
「どうしたの? 急に顔を赤くして」
「あ、あの……、ともだち、から?」
「うん。今はまだ、友達以上、恋人未満だよね」
にっこり笑うカウル。こ、こ、こ、こいびと? 何それ? む、無理なんですけど……。顔から火を噴きそう。いや、噴いてる。カウルの笑顔を見ると目がチカチカするし、頭がぼっとしてめまいがするもの……
「カウル様のせいね。こんなウブな子に刺激の強い言葉を使うなんて」
「アメリア。俺、ただ、恋人未満って言っただけで……」
「ジャイルマのエルフは、とても純真なの。特にこの子は、存在自体が奇跡と言ってもいいわ。恋愛関係には全く免疫が出来てないみたいだから、言葉一つにも気をつけないと」
「分かったつもりではいたけど、まさか、こんなに繊細だなんて……。あ、目を開けた。良かった」
カウルが初めて見せる心配そうな顔で、覗き込んでいるのに気付いた。僕、気を失っていたみたい。喫茶店のソファに寝かされている。
「はい。気つけのハーブティを飲んで。むせないようにゆっくりね」
アメリアが僕の背中を支えて身体を起こしてくれた。ソファに座って、差し出された香りの強いお茶を飲むとお腹が暖かくなって気持ちが落ち着いてきたけど、まだ、カウルの顔は直視出来なくて、思わず目を背けてしまった。
「で? 首尾はどうだったの? カウル君とのデート」
「お友達になれた」
宿に戻った僕は、沙羅にそれだけ言って、ベッドに顔を伏せた。
「あのね、わたし、あなたのおままごと遊びに付き合う気も暇もないの。ちゃんと、伯爵に会うきっかけ作れたんでしょうね!」
「その点は、問題ありません。マスター。今、イフ=レーミンから、着信がありました。兄上に紹介したいから、城で待つ、と」
いつも通り抑揚の無い声のルゥちゃんが、パタパタ尻尾を振りながらそう言った。
「なんだ。ちゃんと話しつけてきたんじゃない。上出来よ。キョウ。……でも、服が皺になるから起きてね」
と、ベッドにうつ伏せのままの僕の背中を撫でる沙羅。
「カウル」
と、シャルマが僕の耳元でささやくように言った。
「ねえ、沙羅。面白いよ。キョウに、カウルって言うと、耳を赤くして、体をプルプル震わせるんだよ」
「キョウをおもちゃにして遊ぶのは止めて。シャルマ。それより、作戦会議。どうやって、全員で伯爵の居城に乗り込むか。宮廷魔術士のオシリスもいるから、用心しないと」
「オシリスは、怖いから、沙羅に任せた。ハニートラップっていうのしかけたら?」
パシッと、鋭い音がして、シャルマの小さな悲鳴が聞こえた。沙羅に思いきり叩かれたようだ。
「ひどいよ。沙羅。ぶつなんて。本気で言っただけなのに。沙羅、胸が大きいから、そういうの得意なんじゃないの?」
さらに大きな音と共にシャルマの悲鳴が上がったので、僕、沙羅を止めに起き上がるしかなかった。シャルマが殺される前に。
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