その三十六 友達から?
「あ、あれね。あれは……、そう、沙羅のいたずら。勝手に面白がってさ。デートだなんて、め、迷惑だったよね」
「俺はもう君に気持ちを伝えたよ。デートに誘われて嬉しかったって」
「でも、デートじゃないって、さっきはっきり言ったし……」
僕の言葉に、カウルはまた悪戯っぽくクスッと笑った。
「アメリアの前ではそう言わないとね。俺、女の子には興味が無いことになっているから」
「ん?」
「キョウはどうなの? 俺の質問にまだ答えてくれてないよ。沙羅のこと、どう思ってるのか」
僕、沙羅が好きだった。今でも、気持ちは同じだと思う。でも……
「……僕、もう、資格が無いから」
「何の資格? 女の子同士だからってこと?」
僕は、ただ首を横に振った。
「人が人を好きになるのに資格なんていらないでしょ?」
「僕、自分でも自分の事よく分かってないから……、変なこと言うけど、驚かないで。僕、人間じゃないみたいなんだ」
カウルはしばらく無言のまま、濃い青の海のような瞳で僕の目をじっと見た。何? この沈黙。気まずいんだけど。やっぱり、言わなければよかった。僕が後悔した時、カウルは吹き出すようにクスクスと笑い出した。
「笑ってごめん。キョウが、あんまり深刻そうに言うから、つい、可笑しくって。あのケルピーの女の子が一緒にいた時点で、そのくらい気付いていたよ。幻獣がただの人間に懐くはずないもの。やっぱり、キョウは面白い」
「面白いって……」
「一緒にいて、楽しいってこと。駅馬車での一緒の旅はすごく楽しかった。だから、あのまま終わりにしたくなかったんだ」
「カウルはいいの? 僕が人間じゃなくても、いいの?」
んんん? 自分でも色々と話を飛ばしている気がする。でも、僕にとっては、カウルに受け入れてもらえるかどうかが、今、一番の関心事に思えた。
「俺が今、こうして、君の前にいることが、その答えになってない?」
「カウルは、やっぱり優しいんだね。僕、誤解してた。身分の違いがあるから、友達になんてなれないって、勝手に思い込んで、意地を張ってた」
僕の言葉に、カウルの表情が一瞬険しくなった。
「キョウもそんなことを思うの? 伯爵家の子弟は、自分の意志で友達も恋人も作ってはいけないって。俺は嫌なんだ。産まれついた家柄に縛られる形式だけの生活なんて。男の子にしか興味が無いって、公言してるのも、カモフラージュのため。そうでもしないと、すぐに、政略の道具として婿養子にされてしまうから……、あ……」
気色ばんだカウルが、そこで、口ごもった。
「ごめん。キョウに言うべきことではないね」
「カウルが謝る必要なんか無いよ。思い込んでた僕が悪いんだから。僕、カウルと友達になりたい。いいよね、こんな僕でも」
「もちろん。そのつもりだよ。友達から始めましょう」
「え……? え、えっと……」
……から? から、が付け加わっただけで、ずいぶん意味が違う気がするんですけど……。僕、友達になりたいって思ったけど、始めるって、何を? そう意識した途端、僕、顔が火照って、赤くなっているのが自分でも分かった。あれ、僕、大胆なこと言っちゃったのかな、そんな意味じゃ……
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