その三十五 初デート♪?

 人生初のデートの相手が男の子で、しかも貴族の子弟だなんて……


 うん。毎度のことだから分かっていましたとも。僕の、意見なんか聞き入れられない事くらい。沙羅の着せ替え人形にされながら、そう思った僕。ため息なんてつこうものなら沙羅に怒られるので、無理に笑顔を作って、ぎこちないポーズまでとりながら。


 自分ではシンプルな男の子っぽい服しか着ない沙羅が、こういう時だけはコーディネートに異常なまでの執着を見せる。まるで我が娘をモデルデビューさせるために気合の入った母親のようだ。





 「良かった。怒らせてしまったのかも知れないと心配していたんです。だから、キョウからお誘いを受けた時はすごく嬉しくって、即答しちゃいました」


 待ち合わせ場所で会った開口一番、カウルはそう言って、茶目っ気のある笑顔を見せた。そんな風に屈託無く笑われると、色々悩んでいた事が、無意味だったように思えてしまう。指定されたのはアンヌの喫茶店みたいな場所だ。たぶん、人払いの魔法とか結界とかに囲まれているのだろう。中はとても静かで、客は僕たち二人だけ。


 「誘ったのは僕じゃないけど……」


 「知ってましたよ。沙羅の使い魔からの着信だったので。でも、こうやって、キョウが来てくれたんだから、同じことです」


 カウルは、駅馬車の時と同じローブを着ているが、フードは脱いでいるので、笑うと、金髪がふわふわ揺れる。


 「カウル様が、女の子とデートだなんて、珍しいわね」

 メイド服姿の店員さんがそう言って、ホットココアを二つテーブルに並べた。


 「デートじゃないよ。アメリア」


 カウルは、照れた様子もなく、そう言った。ま、そりゃそうだよね。と思う僕。


 「可愛い子ね。ジャイルマ出身でしょ。顔立ちで分かるわ。北国のジャイルマには美人が多いから。古代の妖精の子孫だって伝説もあるのが分かる気がする」


 アメリアと呼ばれた店員さんも情報通なのだろう。僕は、うつむき加減の曖昧な笑顔でうなずくしかなかった。出来れば、その話題は避けたい。デートじゃないと言われた僕への気遣いか、ただのお世辞だと思うけど、僕の体、キョウという少女に関する事は、僕には応える記憶すら無い。


 「あのさ、カウルは、どうして来てくれたの? あ……、僕も会えて嬉しいよ。今は、本当にそう思ってる。でも、カウルは……」


 僕は、思い切って話を切り出した。


 「直接会って、謝りたかったんです。黙っていたこと。領主の弟だって。結局、キョウを騙したみたいになったから」


 「僕も、謝りたかったんだ。せっかく招待してくれたのに、断って。その……、悪いことをしたなって」


 「じゃあ、お互いさまですね」


 屈託の無い笑顔でそう言って、カウルは、無言でアメリアに指図を送った。彼女は別室に移り、部屋の中、二人だけになった。


 「本当のことを言うと、沙羅の使い魔からの着信には驚いたんだ。キョウは沙羅が好きなんだよね? それなのに彼女からキョウの名前でデートのお誘いだなんて」

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