その三十四 ハニートラップって?

 「ち、違う、そんなんじゃないって言うか……」


 「キョウ、照れてる。可愛いい!」とシャルマ。


 だって、カウルは、女の子に興味が無いからとは言えなかった。そういう発言は、本人の口からしか言ってはいけない気がするし、僕自身の言い訳にはならない。


 ちょっと強引なところがあるカウルの態度も嫌いじゃない。だけど、身分を隠して、ずいぶん踏み込んだ話までしていたのは許せない。その上、いい友達になれそうだなんて……、どんなつもりで言ったのだろう。


 「ま、いいわ。ただし、キョウには責任とって、色仕掛け作戦を実行してもらうわよ」と沙羅。


 「だから、何なんだよ、その怪しい作戦って」


 「スパイの定石、ハニートラップよ。先ずは、手短なところから、あの弟君に罠を仕掛けてもらうからね」


 「無理! どんないかがわしい罠を考えているのか分からないけど、絶対、いやだ! 何? スパイって」


 「何が無理なの? 大金がかかったビジネスなんだから、割り切ってもらうわよ。私情をはさまないで! いかがわしいって、何よ。キョウが勝手にいやらしい事考えているだけでしょ」


 と、いつにも増して有無を言わせない態度の沙羅。


 「沙羅、ヤキモチ焼いてるの?」


 シャルマが急にそんな怖いもの知らずの発言をした。


 「はあ? わたしが誰にヤキモチですって?」


 「だって、キョウにずいぶん辛く当たってるから」


 「わたし辛くなんて当たってません! べ、別に、キョウが誰を好きになろうと、わたしには関係無いんだから。変なチャチャ入れて混ぜかえさないで! これは、ビジネスなの」


 「マスター。イフ=レーミンから返信が来ました」


 そこで、ルゥちゃんが口を挟んだ。とても悪い予感がする僕。それって、カウルの使い魔の名前だよね。


 「思ったより早かったわね。返事は?」


 「待つ。と」


 「商談成立ね」


 そう言って、コロリと機嫌を直した沙羅は僕の顔を見てにっと笑った。


 「今度は何? 商談って?」


 「大したことじゃないわ。デートの申し込みをしただけ。出番よ、キョウ。早速、着飾ってもらうわ」


 デ、デート? カウルと? 僕? 嫌だって言ってるのに……。こんなこと、勝手に決めていいの? 僕の意思は? 無視、だよね……

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