その二十五 言葉に出来ない思い

 紙片に指定された日時、昼下がりの街並み、アンヌの部屋はレンガ造りのとんがり屋根の棟続きの家の中だった。闇世界の人脈にも通じているという話だった彼女、もっと謎めいた場所かと思った。一帯が住宅地なのだろう。華やかな表通りと違って、落ち着いた雰囲気の家が多い。それでいて、庭や窓は色とりどりの花で飾られている。


 アンヌは、普段着で僕を迎えた。


 「ちゃんと一人で来たんだ。えらいね」


 そう言って、アンヌは香りの強い濃いめの紅茶を出してくれた。


 「どうぞ」


 花柄のティーカップとソーサーをテーブルに乗せた後、アンヌは、僕の髪を軽く撫でた。


 「それで、グリフォンの話だっけ? キョウちゃんが会ったのは、光の波動を司る聖獣だね。ちょっと調べてみたんだけど」


 アンヌは小さなテーブルを挟んで、脚を組んで座った。


 「何かわかったの?」


 テーブルに身を乗り出した僕に、アンヌはにっこりと笑いかけた。


 「分かったのはそれだけ。だって、キョウちゃん自身に秘密な部分が多過ぎるんだもの」


 「……」


 「ほら、そうやって、口を閉ざすでしょ。言葉に出来ない思いを抱えているのね」


 「あの……」


 「沙羅がいけないのよね。あの子、いらない事までしゃべり過ぎだから……。ところで、あなたボーイフレンドいる?」


 「え? ボ、ボーイ……」


 なぜか、僕の脳裏に小次郎の顔がよぎった。いや、絶対あり得ないから。そりゃ、抱きかかえられた時、頼りになるって思ったし、包み込まれそうだとふと思ったことあるけど……


 「あなたくらいの年頃で、その可愛さだったら、いない方が不思議だと思うけどな。じゃ、ガールフレンドは?」


 僕は口にしていた紅茶にむせて、咳込んでしまった。


 「ごめん。聞き方が悪かったかしら。じゃあ、言い換えるね……。沙羅とはどこまで進んでいるの?」


 「え? ええっと……、どこまでって……、あの…、その……」


 「思った通りの反応だわ。そんなに顔を真っ赤にしちゃって、可愛い。食べちゃいたいくらい」


 アンヌはテーブルの上で顔を近づけてきた。近い。近過ぎます……


 「私も、女の子が好きなの。特にあなたのような可愛い子が」


 そ、そっち系のかたでしたか。って、ツッコミ入れなきゃならない状況? 「も」ってどういう意味? これって、それなりにピンチじゃ……

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