その二十六 異質なる物って?

 「そのために、呼び出したの?」


 警戒感をあらわにした僕の様子に、悪戯っぽい笑みを浮かべたアンヌは、甘い香水の香りを残してするりと身を引いた。


 「ううん。ちゃんと、キョウちゃんの相談に乗ってあげるためだよ。でも、こういう事は、最初に言っておきたかったの。私は、キョウちゃんが好きだって。あなた、言わないと分からない子でしょ」


 「相談?」


 「そう。迷っている事があるんでしょ? 目がそう言ってるもの。憂いを隠そうとする長い睫毛の目。思わず、キュンときちゃう。グリフォンの話はいわば口実で、あなた自身の事よね」


 「……僕、何をしたらいいのか分からないの。いつも沙羅の足手まといになってばかりで。頭の弱い子だって思われてるし、……そうかもしれないけど。誰も皆、僕のこと決めつけている……可愛いけど、か弱くて、可哀そうな、女の子って。でも……」


 「違うんだね」


 僕はただこっくりうなずいた。


 「それは、キョウちゃん自身はすごく悩むと思うよ。他人から決めつけられる事ほど苦しいことはないから。辛いけど、それが人間なの。みんな誰かを自分の枠にはめて生きている。だけど、信じて。私がキョウちゃんを好きだって言ったこと。もちろん今でも大好きだから」


 「アンヌ、優しいんだね。僕、ちょっと誤解してたかも」


 「うん。好きな子には特に優しいよ」


 アンヌは、立ち上がって、僕の髪を手にとった。


 「この髪、毎日、沙羅がブラッシングしてくれるんでしょう。服も凄く似合ってる。沙羅が選んでくれるんでしょう。悔しいな。私、沙羅にかなわないから。でも、私も諦めないよ。きっと、みんなそう。あなたのことが好きでたまらないの」


 「僕、アンヌのこと好きになった」


 「ありがとう。そう言ってもらえると、凄く嬉しい」


 アンヌは満面の笑みを見せたが、僕と視線を交わして表情を固くした。


 「注告もしとくね。歌姫セイナに会ったでしょう。彼女は異質なる物。警戒して」


 「それって、どういう……」


 「意味なんて無いよ。ただ異質なの。悪意も善意も無いって言えば分かるかな。キョウちゃんのハートで感じて」


 そう言って、アンヌは僕の胸に手を当てた。


 うん。やっぱり分からない。だけど、無理に答えを出さなくてもいいような気がしてきた。僕が何者か。何をしたら良いのか。僕自身、そして、この体、キョウという少女が、決めることなんだ。

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