その二十三 ぴょんぴょん元気な女の子
僕は沙羅とレイと一緒に賑やかな通りを歩いていた。重たいチューバはレイが背に乗せてくれているので雑踏の中でも歩くのが楽だ。フリルとリボン付きのスカートにもだいぶ慣れてきた。あれ? そういえば……
「今日は、ルゥちゃんは一緒じゃないの?」と、僕。
「使い魔のオフ会があるって、今朝から出かけたわ。キョウ、あなたはいつものように、寝坊して気付かなかったでしょうけど」
「オフ会って……」
この世界には、妙にあの世界のネットっぽい要素が混ざっている。魔網と呼ばれる情報網もあり、ソーシャルネットワークもあるらしくて、お店選びも口コミを参考にする。そんな時、使い魔はインターフェースのようなものだ。
レイは、お菓子屋さんの前を通るたびに、華やかなショウケースに張り付くようにのぞき込んで、引き剥がすのに苦労する。沙羅はさんざん文句を言いながらも、時々レイにタルトや焼き菓子を買ってくれた。その時だけ、レイは無邪気な笑顔を沙羅に見せる。
平穏な光景の中、アンヌから渡された紙片のメッセージに、僕、まだ迷ってる。
のこのこ出かけて行って、歌姫の時と同じように妖精体の事がバレるのはごめんだ。その反面、沙羅にもアンヌにも秘密を抱えたままで、アドバイスを欲しいというのも虫が良すぎる気がする。
いっその事、歌姫の助言を無視して、沙羅に洗いざらい打ち明けてしまった上で相談した方がいいのかな。しかし、アンヌは、一人で来いと指示した。沙羅を避けているのだろうか。
「ねえ、キョウ。聞いてる? ほらあの淡い空色の服、とっても綺麗。キョウに似合うと思わない?」
ブティックだってこの世界にはある。ウインドウショッピングをしながら、沙羅は、僕に試着をさせようとする。お金が掛かると文句を言っているくせに、この数日ですでに何着か僕の服ばかり買ってくれた。ダングレア退治の報奨金と分捕った戦利金で財布の紐が緩んでいるのだろう。
正直なところ、僕、オシャレには興味持てないけど、試着した時の沙羅の目の輝きを見るのが楽しみになってきた。試着室の鏡に映る自分自身の姿の違和感もだいぶ薄れてきた。あの世界で男だった自分の記憶がどんどん遠くなる気がする。
「あれ、キョウじゃん! ひっさしぶり!」
緑のグラデーションに髪を染めた女の子が通りの向こうから駆け寄ってきた。
「キョウも、サルサーンに出て来ていたんだね! びっくりしちゃった。相変わらず可愛いね。あれ、一緒にいるのは、もしかして、彼氏?」
いや、沙羅さんです。男の子っぽい服は着てるけど、体形で間違えよう無いでしょ。って、あなた誰?
「え、えっと……?」
「クラリネットのシャルマだよ。隣村の」
女の子は跳ねるような調子で言った。
ごめん。全く覚えが無いけど、吹部仲間だったみたい。ここは愛想笑いで話を合わせないといけない場面だね。うん。隣では、沙羅が目を尖らせて両手を腰にしてるし、レイはフーフー唸ってるけど……
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