その十九 鏡月見にご用心

 夕食の後、順番にお風呂に入り、浴衣に着替える。髪は、昨日同様、沙羅にとかして乾かしてもらった。毎日、こうしてもらっているらしい。慣れた手付きだ。時々、ルゥちゃんと目が合うのが気になる。


 髪を梳いてもらった後、僕は、一人で庭続きの屋敷の廊下に出て夜風にあたっていた。


 「キョウ殿、鏡月見とは風流ですな」


 声と共に、長身の小次郎が寸足らずの浴衣を着て、横に並んだ。僕は屋敷の池に映る月を眺めているところだった。こうして並ぶと、随分背丈が違う。ケンタウロスの森では、僕の体を片手で軽々と抱き上げていたし。そう言えば、あの時助けてもらった礼も言ってなかったっけ。


 「小次郎。その……、今朝はありがとう。助けてくれて」


 「礼などとは水くさい。いつもつれない態度のキョウ殿が、いつになく素直なご様子。何か悩み事でもあるのでござらぬか。何なりと、相談に乗りまするぞ」


 ふわっと全身を包み込むような小次郎の低い声の調子が心地良く聞こえた。


 「小次郎。あの、さ……、僕、男に見える? 女に見える?」


 小次郎の顔を見上げているうちに、ついそんな言葉が僕の口から出てしまった。僕は、慌てて口を手で塞いだが、もう遅い。小次郎は、一瞬眼光を鋭くした。


 「え、あの……、違うんだ……、今のは……」


 「何を言い出すかと思えば、ケンタウロスの謎かけの続きでござるか。森の賢者は、分かったふうな様子で、分からぬことを言うもの。隠れ住む者の常。気にすることはござらぬ。キョウ殿が、自身の胸が小さいことを悩む必要はござらぬよ。むしろ、貧乳フェチの拙者にとっては……」


 そこかい! それ、立派なセクハラ発言だからね。と、内心ツッコミを入れていた僕の目の前に突風と共に大きな影が舞い降りた。


 「ミ・ツ・ケ・タ」


 それは言った。女性の頭と見事な胸部に大きな翼を持った怪鳥だ。金色に光る眼で僕に刺すような視線を投げた。あの……、見つけたって、何を? 僕、食べても美味しくないと思うよ……

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