その十七 不埒な輩?

 「ねえ、何があったの? あのケンタウロス、キョウの顔を見て驚いてたみたいだけど」


 ケンタウロスが去った後、梓はそう言った。


 僕の顔をじっと見るルゥ。


 「ルゥちゃん、どうしたの……かな?」


 小次郎の小脇に抱えられたまま引きつった愛想笑いでごまかそうする僕。


 「半妖は、妖魔の血を受け継ぐ者の一般名です。でも、歴史上マルドゥクという名前の妖魔の記録はありません。その名は、この世界を終わらせるという伝説上の魔獣であり実態は不明。つまり、相入れない二つの言葉を並べる森の賢者流の謎かけかと。半妖という言葉自体、幼い少女の例えで使われることが多いですから」


 と解説するルゥ。パタパタと尻尾を振り始めた。どうやら、気付かれずに済んだみたい。なにやら物騒な事を言ってるけど……


 「相変わらずいけすかない奴。わたしたちを煙に巻いたつもりかしら。ま、一文の得にもならない狩だったからいいけどね」


 と沙羅。だったら、始めから喧嘩売らなくても……


 歌姫は思案顔で無言。


 「キョウ殿を狙う不埒な輩が増えたかと拙者心配致しました」


 おまえが一番不埒なんだよ。いいかげん僕の体を放せよ。


 と、その時、僕は木立の中、素早く動く影のような物を見たような気がした。目を凝らしたが、何も見つからなかったので、その時はさして気にとめなかった。




 村に近づいたところで、小次郎が立ち止まって、沙羅に何か目配せした。


 「沙羅殿……」


 「ええ……」


 沙羅も立ち止まり身構えたかと思うと、振り向きざまトランペットを吹き鳴らした。


 「キャッ」


 子供のような悲鳴が聞こえた方向、木の根元に鹿のような生き物が倒れていた。髪の長い鹿?


 すぐに飛び上がって逃げようとした生き物は、小次郎の投げた縄に足が絡まってもがいている。


 「あんた何者? どうして尾けてきたの?」


 沙羅が馬乗りになって捕まえたそれは、上半身が裸の少女、下半身が仔馬だった。


 「ケンタウロスの子供?」


 「ウッ、ウ!」


 それは、沙羅の手から逃げ出そうとして暴れている。


 「そんな、乱暴に押さえつけたら、かわいそうだろ!」


 僕は、思わず手を出してそれをかばおうとした。


 「オニイチャン!」


 「へ?」


 それは、沙羅の手を振り解き、僕の懐に飛び込んで抱きついた。

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