その十六 森の賢者に喧嘩を売る危険少女
「どうじゃ。惚れ直したかの」
歌い終えると歌姫はニッと笑った。
その時、森の奥から響く不協和音が聞こえてきた。鳥のさえずりがぴたりと止まる。
「出たわね。オルタ。ゆうべ邪魔してくれた礼、きっちり返すわよ」
と沙羅。
「え?」
「闇の旋律を奏でる反転体。もちろん説明は不要と思いますが。相手はサクソフォン族、強敵です」
とルゥ。
「キョウ殿危ない!」
と小次郎。いきなり、僕、ピンチ? まあ、もう慣れましたけど……
不気味な騒めきと共に森の中から現れたのは、半人半獣のケンタウロス。人間の上半身に馬の体が繋がっていて、バリトンサックスを抱えている。弓を手にしているケンタウロスもいる。総勢、六騎。僕とルゥちゃんと歌姫は戦力になりそうもないので、数では相手の方が優勢っぽい。
僕は小次郎に助けられて、つむじ風の攻撃をかわしていた。その風は僕が立っていた場所のすぐ後ろの木を引き裂き倒した。小次郎の片腕に抱きかかえられたままだが、こっちの方が安全そうなので、しばらくの間おとなしくしていようと強く思った。
「ここが我等の領域だと知らぬとは言わせぬ。汝ら、なにゆえの所業だ?」
金色に鈍く光るバリトンサックスを手にしたケンタウロスがそう叫んだ。
「それはこっちの台詞よ。お馬さんたち、ゆうべ、魔人に味方したでしょ。しかも、いやらしくただの揺動作戦。どういう了見だったのかしら。我が真名は、サラ=エファソニア=ミショル=カンナ、闇を裂く光の旋律の使い手。返答次第では、頭を揃えて馬肉売り場に並ぶことになると思いなさい!」
いきなりけんか腰の沙羅。朝練と言いながら、喧嘩売りに来たんですか?
「名乗りまでされて売られた喧嘩を避けたとあっては末代の恥。死に急ぎたくばお相手致そう。汝らがこの世で聞く最後の名を知るがよい……」
凄みを効かせてそこまで言ったケンタウロスの視線が、小次郎の小脇に抱えられている僕に止まって、顔を凝視している。僕、また嫌な予感がするんですけど。
「……なるほど、マルドゥクの半妖か。確かにこれは相手が悪い。決着は後日」
くるりと背を向けるケンタウロス。
「待ちなさい! 逃げる気?」
「無益な争いを避けるまで。昨夜のことは、ダングレアへの恩義返し。他意は無し。それでよろしいな。光の者」
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