その十五 生寝顔
「ほっほー。これが生キョウの寝顔ですか。ヴァーチャルキョウの参考に、写真を撮ってと……。パチリ。せっかくなので、SNSにアップさせてもらおうかしら。ね、いいわよね、神無月」
「ふぇ?」
寝ぼけまなこを擦る僕の上に梓が屈みこんでいた。すでに室内は明るい。
「キョウ、揺すっても起きないから、あなたまた、よからぬオモチャにされてるわよ」
と沙羅の呆れたような声。
「よからぬとは、なによ! まるで、いかがわしい目的でもあるみたいじゃない。私は、純粋な気持ちで、ヴァーチャルアイドルキョウのプロモーションに取り組んでいるんだから」
何なんですか、梓さん。そのいかにも怪しい活動は。って、この世界にも写真なんてあるんだ。
「寝ぼけた顔も可愛いのう。その写真、
いつの間にか、セイナまで、露出度マックスの歌姫衣装で輪に加わっている。
「んじゃ、秘蔵写真のこれとセットで三百ルードルでどう?」
「三百か、高いのう。でもどっちも欲しいのう」
「なんだよ、その写真って」
僕は、梓が自慢げに手でひらめかしている薄く光る硝子板のようなものを取り上げようとした。
「ダメよ。本人には見せられないわ。恥ずかしくて。ちゃんと、モデル代金は神無月に払ってるんだから。文句があるなら神無月にどうぞ」
「なんで、サラに?」
それに、恥ずかしくて本人に見せられない写真って、どんな写真だよ。
「保護者特権よ。あなたみたいに世話のかかる子を養うにはお金が必要なの」
さも当然の事のように言い放つ沙羅を目の前に、僕、やっぱり、男になって、こんな生活から抜け出したくなった。
朝練と称して沙羅に率いられた僕たちが向かったのは、村から歩いて三十分ほどの森。そこで合奏練習。パーツが足りないし、変な点を数え上げたらきりが無いものの、僕が元いたあの世界の日常が戻ってきたような気がした。
魔物を狩る時のような攻撃的なリズムではなく、穏やか朝の景色にマッチした旋律の繰り返しに、森の鳥たちのさえずりも加わり、心の底から湧き上がる世界との一体感のようなものを感じた。ああ、僕やっぱりチューバやっててよかった、なんて、呑気なことまで思ってしまう。
村からついてきたセイナの歌も加わった。セイナの歌を聴くのは初めてだ。言動からは想像出来ないような澄み渡る声で、僕には理解出来ない言葉の歌をつづった。
「古代の妖精語です」
というのはルゥちゃんの解説。耳をぴょこぴょこさせながら、歌の意味を簡単に説明してくれた。内容はよくあるおとぎ話だが、僕は、何故か、涙が溢れてきた。
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