その六 幼馴染はVRオタク?

 「さて、あと一人は、出来ればフルートの子が欲しいわね」


 沙羅はぐんぐん雑踏をかき分けて行く。足元には小走りのルゥ。そして、僕と小次郎が後に続く。チューバは小次郎が持っていてくれるので、だいぶ歩き易くなった。


 「ルゥ、いい子いないかしら?」と沙羅。


 「三ヶ日みかびあずさはどうでしょう」とルゥ。


 それは、僕の同級生のフルート奏者の名前だった。あの世界では幼馴染。ショートヘアが似合うボーイッシュな女の子だ。


 「三ヶ日か……。わたし、あの子苦手なのよね。でも、まあ、選択権はキョウにあることだし」


 そう言って、沙羅は僕の顔を見ているが、これまでの展開から、僕の意見なんて無視されるのがオチだ。僕は曖昧にうなずくしかなかった。




 「きゃー! キョウだ! 生キョウだ!」


 ルゥが探し当てた家の中から飛び出して来た梓は、いきなり僕に飛びかかってきた。絡んだリボンに足を取られて避け損なった僕は梓に抱きつかれた。


 「もう、可愛い過ぎるんだから。今もヴァーチャルキョウにこうやって、頰ずりしてたの」


 と、抱きつかれたままオモチャにされる僕。この世界の梓は僕より頭半分ほど背が高かった。


 「あら、居たの? 神無月」


 沙羅の咳払いに振り返った梓は、急に冷めた目になってそう言った。


 「ええ、三ヶ日。今回はわたしがクエストリーダーよ。それから、わたしのルームメイトのキョウに汚い手でベタベタ触るのはやめていただけるかしら」


 「誰が汚いですって!」


 二人の少女は、僕を間に挟んで激しく睨み合った。


 「うププ。修羅場ですね。キョウちゃん」


 と、ルゥが、僕のスカートの裾を引っ張って楽しそうに笑っている。僕、どうしたらいいの? 何か悪いことした?


 「今朝だって、キョウはわたしのオハヨウのキスで目を覚ましたんだから」


 いや、そんな覚えはありませんよ沙羅さん。


 「ふん。キスくらい何よ。私は、いつもヴァーチャルキョウとあんなことやこんなことして愉しんでるんだから」


 いや、だからそのヴァーチャルキョウって何なんですか? 梓さん。キャラ崩壊し過ぎでしょ。


 「さあ、今日こそ、私とそこのビッチ、どっちをとるか決めてもらうわよ、キョウ!」と梓。


 「誰がビッチですって!」


 「あ、あのう……」


 居た堪れず、僕は蚊の鳴くような声を出した。


 「あなたが、はっきりしないのが悪いんだからね!」


 二人の少女は同時に、僕に向かってそう叫んだ。

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