伝わらぬ過去

「いいですか?日高さん。あなたが見たものをすべて言葉で伝えてください。私は目で見ることはできません。」と深山は護に念を押した。

高木邸に礼二と護。深山の三人で向かう。

いつのまにか道に壁ができそれが延々と続いている。その遥か遠くに門構えがあった。

タクシーが門の前で止まると黒服の老人がタクシーのドアを開けた。

「これは礼二様。皆様お待ちしております。」そういって頭を下げる。

三人がタクシーを降り門の中に入ると花のにおいがする。

「日高さんこの花の匂いってなんですか?」

「あじさいですね。これはすごい。一面アジサイですよ。」

日高のいうように屋敷の入り口から一面アジサイが植えられている。

梅雨の晴れ間が残念なようにしおれているものもある。

アジサイのにおいに囲まれながら三人が進んでいくと母屋があり中には弁護士と親族を代表して英雄と高木春江が集まっていた。


「おじさんおひさしぶりです。」と英雄と春江が少し頭を下げた。

「これで一族の代表者があつまった様子ですね」と財津弁護士は声を上げた。

「えーとそちらのお二人は?」といぶかしげに財津が訪ねる。

「こちらは探偵の深山さんそれと助手の日高くんです」

「おじさん、まだ探そうとしてるの?遅かったよー。だってぼくら見つけちゃったもの」

「え?」

「このたびお集まりいただいたのは昨日高木英雄氏から提出された高木吾郎氏の「遺言書」のことです」

「みなさまお集まりいただいたので開封したいと思います。

財津が重いはさみをつかって開封する。

「遺言書 私高木吾郎の財産は甥高木英雄に2分の1を姪高木春江に残りを相続させる 平成30年6月10日 高木吾郎」

読み上げると皆の前に遺言書を見せた

「そんな馬鹿な。。」礼二はつぶやいた。



礼二と深山日高の三人は疲れたようにまだ高木邸にいるが英雄たちは近くのホテルにもどったようだ。

「これではどうしようもありませんね。力不足ですみません」と深山は頭を下げる

「深山さんが悪いわけじゃあありません。兄貴があんな馬鹿に相続させるとはまったく信じられません」

執事の大高がコーヒーを入れて持ってきてくれた。

「ありがとうございます」梅雨の雨が激しく降り始めていた。

体が温まっていく。

「あのう。」と大高が声をかけた。

「礼二様もご存じのことかもしれませんが、旦那様にはお子様がいらっしゃいました」

「弘文君か。」礼二がハッとした。

「いらっしゃいましたというと今は?」深山が聞いてみる。

「戦死なさったのですよ・・・・。丁度今頃でしょうか?あの日も雨が降っておりました。」しみじみと大高は庭のアジサイを見つめている。「実は旦那様は東京で知り合った女性と結婚し弘文様を授かられました。しかし勘当され貧しい生活が続き奥様はなくなられ弘文様とお二人で戻られました。」


「終戦間際弘文はパイロットとして特攻部隊に配属され空母に飛行機で突っ込んで。。。。」礼二のこぶしは強く握られた。


「次の年終戦を迎えて以来アジサイをお育てになり始めいまではこんなにひろくなりました。まるで弘文様のことを思っているようで。。。」といって大高は涙を流した。


「ちょっと日高さん。アジサイの色ってどんな色してますか?」

「え?」

「赤い花ばかりですね。」

「あれ?一か所青い花がある。違う品種なのかな?」

深山は立ち上がり「わかりました。明日今日集まったみなさんをまた呼んでください。

あ、それと大高さんにお願いがあります。」

そうしてその日は終わっていく。

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