第5話 202号室

 隣の201号室の女性と仲が良い好青年であった。過去形であるのは、好青年はもうこの世にはいないからである。といっても、私の元から去ったわけではない。


 ちゃんと部屋にもいるし、静かに床で寝そべっている。ただ、その頭には血がついており、その血はすでに固まっている。その体はすでに腐敗がはじまっており、傷口には蛆がわきはじめている。


 私だけが知っていることだとは思うが、この青年は階下のクズに殺されたのだ。理由は夜中に足音がうるさいとか言っていたが、それは違うと私は思う。私がそんなにちゃちなつくりではないのだ。激しく踊っていたとかなら別だが、普通に暮らしていた青年の足音が階下に聞こえるなんてことはありえないことである。


 私しか知りえぬことというものは案外多い。それでいくと今回の殺人は男女の痴情のもつれというところだろうか。いくら推理したところで、それは意味のないことである。

 

 私には誰かにそれを伝えることもクズに天罰を与えることすらもできないのである。私は自分の扉さえも自分で開けることができない存在なのである。


 私は行く末をただ見守ることしかできないのである。

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