付喪神

●総合病院へ抜けるバイパスの道中で、付喪神らが情事におよんでいた/ゆずられた優先席から、窓にむかって首をねじり、ガードレールのむこうの歩道をふりかえる/くい破ったネットの残片を張りつかせて、ゴミ捨て場から抜け出してきたアンパンマンとリカちゃんが、茗荷のような円錐形の怒張をさしむけて、たがいを威嚇している/先端のひらきかけたつつじ色をふれ合って、にじり寄っては飛び退く/あ、今、胸の☺マークにぴしりと亀裂が入ったなと思えば、バスは信号待ちから動き出す/あああ、だっこしてる/後部座席の女の子が、身を乗り出してわらう/紅いベビーシューズが片方ころげて、アンパンマンのしろい靴下がのぞく/亀裂に、リカちゃんの茗荷が分け入る/やがて受精した胸腔には、肥厚した粘膜がしきつめられるだろう/切り落としたはずの固形物が、しくしくと苛まれていく


●外来の入り口には、風土病のポスターが貼られていた/痩身の男を描いたモノクロのイラストの下には、「手を洗おう」「裸足で川に入るのはやめよう」「崇めよ」「宮入貝をみつけたら殺そう」などと書かれている/いと畏きものに滋養を捧げる頬の描線は、インクが途中でつきたかのように、かすれている/不敬だ/でも、皮膚をつきあげる膝蓋も、太くしなびた肋骨も、下方にたわんだ臍回りの膨隆も、ほほえむ眦のやさしさも、よく描いてあるなと感心した/感心しながらおれたちの隊列も、膨隆をつきだして、裸足で自動ドアの前に進み出る/蛍光灯の乳色に、ワンピースごとつつまれていった


●足もとには数珠にまぎれて、むなしい貝殻が散らばっている


●指先がつまずいて、

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