硯海

髪飾りや

耳輪や

真珠の首飾りが、足元で死んでいた。

女や

男の

丘陵でいくつもくさって

くたびれてずるり墜ちて、

足音がはじめられる。

わたしはそれらをひろいあつめ、花を編むことにした。外套の

ポケットに死軆をたくわえて回ると、やがて

これ以上は入りきらぬほど

身持ちがふくれたので、

まんぞくな気持ちで港へむかった。

海沿いにつらなる

コンテナのまわりには、

花壇がととのえられていた。わたしがそこに

死軆を蒔くと、重油となって、

持ち込まれた腐葉土に吸われて、重々しく

染みていった。

翌朝

ようすを見にゆくと、硯のように黒光りする造花が

いくつも咲いていた。

潮風に鈴音を

鳴らしていた。

ところがそこに、あらくれの

沖仲仕らがおおぜいやってきて、

くさいし

うるさいからなんとかしろとわめく。

わたしはその

猛る罵声に堪えかね、

まぶしい曙光へむかって身をなげた。

するとわたしも

脳油となって

打ち寄せる波に

ずるり

とけていくのだった。


青い朝焼けが黒い海を蕭々と照らしている。

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