通り雨(灰燼になりたい)

もう遅い

心はプールサイドのような

無限の足跡に汚れてしまった


どうでもいい晩秋のプールのように清潔な

名前のない住宅地は

名前のない弾劾におびえている


名前のない通りをゆく

トレンチコートのフェイクファーとプッシュダガー

通り魔の背中に降る滅びの雨


僕は窓を開け放ち

さまようなめらかな武装を見下ろす

いつまでも怪しい雲行きが僕らを見下ろす

渇いた潤いが吐き気のように喉を刺した

なぜ僕は彼ではないのか

なぜ僕は血の糧となり

なめらかな荒れ地をさまよう倨傲を赦されないのか


名前のない生存の名前のない幸福

害鳥の沈黙が順調な信号機に見える

慣れてしまえばどうということもない

慣れてしまえばどうということもないと

感情の襞をひらいてみれば

生傷

生傷


生傷ばかりで

僕にはまだ早い


名前のない門がひらき

またひとり通り魔を吐き出す

黒光りする小舟のような革靴が

舗道を踏みにじる足音を嫌悪している

あらゆる弾劾が僕を見ている

窓という窓に貼りつく雨滴が僕を見ている

もう遅い心が変態の朝を待っている


なぜ僕は彼ではないのか?

恥知らずな水に爛れてゆっくりと

ひとを刺すひと

怪人になりたい

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