第9話 おかえり!

 翌日の午後、哲子が“ハイツやわらぎ”に帰宅すると、アパートの周りをうろついている不審な男が目に入りました。


白髪頭でジャージ姿のその男は、見紛うことなく郡兵でした。


「ちょっと郡ちゃん、ここで何してるの?」


哲子の姿を見た郡兵は驚いて目を見開きました。


「お前…哲子なのか?本当に、哲子か?」


信じられないといった面持ちで、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきます。


「郡ちゃんたら何馬鹿なこと言ってるの?」


「いや…だって――――」


郡兵は涙を拭いながら言いました。


「昨日、このアパートに霊柩車が来てたって近所のご婦人たちが話してたから、俺てっきり――――」


「失礼ね!私はまだ死んでないわよ!」


哲子は郡兵にくるりと背を向けて歩き出しました。


「ま…待ってくれよ!哲子!」


郡兵が追いかけてきて哲子の腕を取りました。


「何よ。フッた女にまだ何か用?私に構う暇があるんならベビーグッズでも買いに行ったら?」


「その件なんだけど…実は相手の女性が嘘ついてて、俺、騙されてたんだよ…。母子手帳も見せてくれないし、取り合えず六歳までの養育費だけ払えっていうからどうもおかしいと思ってたら…」


「馬鹿ねぇ…」


「ごめん、哲子…」


「本当に馬鹿だわ」


「ごめん…。もう俺のことなんて、嫌になっちまったよな…」


哲子は吐息をつき、リュックを下ろして郡兵に突き出しました。


「重いから持って。話の続きは部屋でゆっくりしましょう」


「俺を許してくれるのか?」


「そうね。土下座して謝るのなら考えてあげてもいいわ」


「ありがとう哲子…」


二人は熱い抱擁を交わしました。


「いいのよ。まんまと騙された馬鹿はあなただけじゃないもの」



――END――

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哲子67歳☆恋して焦げて狂い咲き♪~哲子シリーズ②~ オブリガート @maplekasutera

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