第6話 渾身の一皿

 土曜日。


哲子は試作した料理を食べてもらおうと、高岡さんを自宅に招きました。


「おまたせ~」


哲子が運んできた皿の上には得たいの知れない塊が乗っかっています。思わず高岡さんは顔をしかめました。


「これは何?」


「何って、哲子特製オムレツよ」


「ふーん…。コンビニで買った卵焼きをすり潰して盛り付けたってわけじゃないわよね?」


「失礼ね。ちゃんとフライパン買って作ったわよ。見た目はちょっとアレだけど、味には自信あるから」


「じゃあ、いただきます」


一口食べた瞬間、高岡さんの手から箸が滑り落ちました。


「どう?美味しい?」


高岡さんは無言で席を立ち、そのまま流しの方へと走っていきました。


「そんなにまずかったのかしら?」


哲子も一口味見してみました。


「うッ…!」


高岡さんに続いて流しへと走っていきました。


お水をたっぷり飲んでお口直しをした後、二人はテーブルを挟んで真剣に話し合いました。


「哲子さん。明日は絶対に料理を作っちゃダメよ。コンビニのサンドイッチを盛り付けて、なんとか誤魔化すのよ」


「ダメよ。郡ちゃんに手料理を食べさせてあげるって約束したんだもの」


「あの殺人的な料理を郡兵さんに食べさせるつもり?」


「殺人だなんて大袈裟ね~」


「私は哲子さんのために言ってるのよ。下手したらまた別れることになるわよ」


「はいはい、わかったわよ」


そう返事しながらも、哲子はひそかに携帯をいじり、ローストチキンのレシピを検索しているのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る