第3話 見合い写真

 数日後、高岡さんから見合い相手の写真とプロフィールが届きました。


「どんな素敵な方かしら」


哲子は期待に胸を踊らせながら、写真台紙をそっと開いてみました。


「え?」


哲子の眉間に深い皺が刻まれました。その状態で、しばらくフリーズしていました。


写真の中から哲子に微笑みかけているのは、眩しいほどつるつるにハゲあがった、しわくちゃのおじいちゃんでした。その名は松村権三朗まつむらごんざぶろう。御年九十五歳。


「私、もしかして疲れているのかしら?」


どうしても目の前の現実を受け入れたくなかった哲子は、いったん写真台紙を閉じ、両目をこすって深呼吸してからもう一度ゆっくり開いてみました。ところが哲子が何をやっても、写真の権三朗が若返ることはありませんでした。哲子はショックのあまり寝込んでしまいました。



翌日、少し元気を取り戻した哲子は、一言文句を言ってやろうと高岡さんに電話をかけました。


「紫さん。私、見合いの件お断りするわ」


開口一番にそう言いました。高岡さんは残念そうに嘆息しました。


『哲子さんにぴったりの方だと思ったのに』


「失礼しちゃう!」


哲子はぶちっと電話を切り、怒りに任せて携帯を床に放り投げました。ところが携帯が床に着地するやいなや、荒城の月着メロがけたたましく鳴り響きました。


あまりにもタイミングがよかったので、てっきり高岡さんからの折り返しの電話かと思いましたが、ディスプレイには“非通知”と表示されていました。


「もしもし?」


少々怪しいと思いながらも、一応電話に出てみました。


『もしもし、哲子さん?』


相手の声を聞き、哲子はハッとしました。隆治だったのです。


「フッた女に、今更何の用ですか?」


『あのさ…実は俺、幸江と沖縄で同棲することになったんだ』


「あっそう。だから何?」


哲子はいらいらしてきました。


「沖縄でもハワイでもジンバブエでも、勝手に行けばいいじゃない。なんでわざわざ私に報告するわけ?」


『いやぁ~…哲子さん俺にメロメロだったし、俺が北海道からいなくなったら寂しがるかなって思って、最後に別れの挨拶くらいしてあげようと思ってさ』


いい加減、哲子はキレました。


「寂しくなんか、ちっともないわよ!さっさと地獄へ落ちろ!くそったれ!」


汚い捨て台詞を吐いて、哲子は電話を切りました。そしてその後、ベッドに突っ伏して大号泣しました。悔しくて仕方ありませんでした。


「きっと私は一生結婚できないんだわ。こんな思いするくらいなら、もう二度と三次元の男なんて愛さないんだから!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る