第2話 失恋

 ある日の土曜日。


哲子はまたも街中に繰り出し、大通公園のベンチに座ってナンパされるのを待っていました。すると偶然にも、噴水の近くを歩く隆治の後ろ姿が見えました。しかも、隣りには若い女を連れています。哲子はいても立ってもいられず、隆治に猛然と駆け寄って行きました。


「隆治さん!」


般若のような形相の哲子を見て、隆治は仰天してその場にひっくり返ってしまいました。


「ひどいじゃない!私という女がありながら、別の女と浮気なんて!一体その女誰なの?」


隆治は顔を上げ、おずおずと説明し始めました。


「彼女は幸江ゆきえさん。俺の本命の彼女なんだ」


「なんですって!」


哲子はいきりたって、今度は女の方に鋭い視線を向けました。


「この泥棒猫!私の隆治さんをとらないでよ!」


幸江は目をぱちくりさせていました。


「“私の”って何?あなた隆治さんの何なの?」


「彼女―――ではないけど…これからそうなる予定なの!」


幸江は物問いたげに隆治を見つめました。隆治はたじたじしていました。


「ごめん…哲子さん。俺、実は年上の女性ってタイプじゃないんだ」


その言葉に、哲子は酷くショックを受けました。


「何よ!この間ナンパしたくせに!」


「夕方で薄暗かったし、顔がよく見えなかったんだ。可愛いワンピース着てたから、てっきり若い子だと思って。まさか俺のお袋ほどの年の人だったとは…」


「失礼ね!そんなに年寄りじゃないわよ!」


哲子は隆治に往復ビンタを二回ほど食らわし、憤然とその場を去って行きました。



その夜、哲子はヤケ酒をしながら、高岡さんに電話で延々と失恋の愚痴を聞かせていました。


「私だって二次元以外の男性と恋愛したいし、結婚だってしたいのに…。これじゃ一生独身で終わっちゃうわ…」


『そんなに結婚したいの?』


「そりゃ、したいわよ。だって私もう六十七よ。ぐずぐずしてたら花の盛りが終わっちゃうわ!」


『盛り…?』


高岡さんは一瞬押し黙ったあと、ふいに閃いてこんな話を持ちかけました。


『よかったら、哲子さんにお見合い相手を紹介して差し上げるわ。私の親戚のおじさまで、陶芸教室の先生をやっている方なんだけど―――』


「陶芸教室?」


哲子はさっそく食いつきました。


「渋くて素敵ね!是非紹介して!」

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