哲子67歳★恋して焦がれて乱れ咲き♪~哲子シリーズ①~

オブリガート

第1話 哲子、ナンパされる!

 岩倉哲子いわくらてつこ。御年六十七歳。元中学校教師。七年前から月四万五千円のボロアパートで年金暮らし。ちなみに独身。結婚歴、なし。出産歴、なし。彼氏いない歴三十七年。


ある土曜日の昼下がりのことでした。哲子は暇で暇でしょうがありませんでした。

そこで、最近ソーシャルゲーム上で知り合った高岡紫たかおかゆかりに電話をかけました。


ちなみにそのソーシャルゲームのタイトルは、『きらきら☆わたしの王子さま♪』。女性向けの恋愛シミュレーションゲーム―――いわゆる“乙ゲー”。


高岡さんは哲子が住む町からそう離れてない場所で暮らしており、現在ぴちぴちの大学三年生。二人はこれまでに数回ほどカフェでお茶をしたことがあります。


呼び出し音が鳴り続けることおよそ二分。高岡さんはいっこうに電話にでてくれません。哲子は諦めて携帯ガラケーを閉じました。


「しょうがない。天気も良いし、どこかに出かけるか」


哲子はベッドから起き上がり、さっそく身支度を整え始めました。


年々ファスナーの上がらなくなってきた水玉のワンピを無理やり身体に着せ、顔面にこれでもかというほどファンデーションを塗りたくり、真っ赤な口紅をぐりぐりとたっぷりつけました。


「うふ、いい感じ。二十歳は若く見えるわ」


全身鏡に映る自分の姿に十分満足すると、哲子はルンルン気分でお天道様の下へと飛び出して行きました。


向かった先は、札幌中心部、大通公園。


休日ということもあり、大通公園は多くの人々で賑わっていました。哲子は空いているベンチによっこいしょっと腰掛け、いったん手鏡で乱れた髪を整えました。


「ここに座っていれば、そのうち誰かナンパしてくれるわよね」


と、大いに期待しながら、かれこれ三時間ほど待ち続けました。


時刻は夕方五時。そろそろ腰が痛くなってきたので、いい加減帰ろうとベンチから立ちあがったその時でした。


「Hey!そこの彼女!俺とお茶しない?」


突如、白髪混じりの中年の男が声を掛けてきたのです。年は哲子より一回りほど下でしょうか。日焼けした顔にチョビ髭を生やした、なかなかの色男です。


「はい!是非!」


哲子は目にハートを浮かべながら男性の誘いを快く受けました。


二人は近くのカフェに入り、自己紹介も交えていくつかとりとめのない会話を交わした後、連絡先を交換し合い、六時半に解散しました。


そのダンディな男性の名は隆治りゅうじ。年は五十五歳。早期退職し、現在すすきのにある沖縄料理店でアルバイトをしているようです。


哲子はアパートに帰宅するなり、さっそく隆治にメールを打ちました。


『隆治さん♪今日はありがとう^^次はいつ会える?』


文末には自分の歳の数(六十七個)だけハートマークをつけておきました。


哲子は送信ボタンを押し、携帯をパタンと閉じて胸に押し当て、一人でにやにやしていました。


数秒後、哲子の携帯から荒城の月(着メロ)が流れ始めました。哲子は即座に携帯を開き、画面に顔を近付けました。


しかし、それは隆治からの返信ではなく、メールが相手に届かなかったことを知らせるエラーメールでした。

どうやら隆治は哲子にデタラメのメルアドを教えたようです。


しかし、元来鈍感な哲子は、


「隆治さんったら、アドレスを間違えたんだわ。そそっかしいんだから~」


と呑気に笑っていました。


「きっとそのうち彼の方から連絡してくれるわよね」


しかし、一週間経っても隆治からの連絡はありませんでした。

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