第4話

「それでなんかさっきより難しくなっている気がするんですが?」

『それは当然だよ。だってさっきのは基本でこれは少し応用が入ってきてるからね』

 この手の説明には珍しく、理桜が説明してくれた。翼と違い理桜は俺を直接的には罵らないなら精神的に楽だ。それにしてとこの厚さ。もう笑うしかない。一冊で、さっきの二冊を積み重ねたよりも厚い。鬼畜か?

 だが、ここから出るためにはやるしかないらしいのでやる。



「死ぬ…」

『言葉が出るうちは大丈夫よ!』

 俺はこの椅子と机に座ってから不眠不休でやっている気がする。

「寝たい」

『ここは寝なくても大丈夫なの!』

 なんてブラックな場所なんだ。少しは人権を考えて欲しい。多分翼に言っても無駄なんだろうけど。

 でも、これだけやったら次は何をやるんだ?その答えは、俺が聞くまでもなかった。翼が言ってくれたのだ。

『次は過去問よ。どれだけ伸びているのか、確かめて見なさい』

「過去問か…」

『なに、まだあれを解きたいの?』

 反射的に首を強く横に振った。

『なら早くやって。いくわよ。…始め!』

 また俺は過去問を解いている。だが、今度は前回解いた時と違ってサクサクと解ける。わかる。解答までの道筋が見えている。

 俺は鉛筆を置いて見直しをすることもできた。進歩だ。

 そして、しばらくすると、また太鼓の重低音が響いた。

 前回と同じく、翼はその答案用紙を機会にセットした。そして、その結果を見ると、少し驚いていた。

『すごいじゃない!成長よ成長!』

『どれどれ…。ほんとだ!すごいよ裕哉くん』

 そんなに褒められると嬉しいな。

「へへ、ありがとう」

 そう思っていたら二人が光に包まれた。直後、二人は激しく光を放ち始めた。その光は二人を覆うとなんだか、形を変え始めた。

 光が収まり俺が目をしっかりと開けて二人を見てみると、そこにいたのは翼と理桜ではない。中学生くらいの女の子だった。

『貴方の成績が上がったから私たちも成長したのね』

『そうね。裕哉くんありがとう!』

「二人とも理桜に翼なのか?」

『それ以外に誰だって言うのよ』

 冷たい目線で翼は言ってきた。成長してより声も視線も鋭くなり、俺の心に突き刺さる。だが、それを抜きにして考えると、すごい美人だ。二人とも。

 これで俺の成績がもう少し上がったらもっと成長してくれると思うと、少し元気とやる気が出てくる。

『さて、私たちをもっと楽しませてね』

 そう言って理桜は笑った。一体この二人はどこまで成長するのだろうか。合法的な外見になってしまうと、そういうことも少し考えてしまう。だが、そんな考えは、翼にはお見通しのようだ。

『この変態!そんな卑猥なこと考えている暇があるならさっさと問題の一つや二つときなさいよ!早く私の問題を解いて欲しいのに!!』

「始めて見た…」

 デレたのだ。それも露骨に。嬉しかった。自分がデレられるだけの存在になったということが。

 さて、ここから先は完全に自分との戦いだ。自分を追い込めるだけ追い込む。ようやくその決心ができた。

「あるだけ問題集持ってきてほしい」俺は頼んだが、自分で頼んでおきながらと恐ろしい事を頼んだな、と感じていた。

『おまたせ』

 少しして理桜と翼が戻ってきた。ここら辺中にある問題集を片っ端から持ってきたようで二人の腕は一杯だった。

「ありがとう」

 そう言って俺は鉛筆を回した。そして、徐に一冊の問題集を手に取ると、解き始めた。こんなに満たされて勉強をしているのは初めてだった。楽しかった。楽しみで仕方がなかった。二人が成長しているところを見るのが。そして、自分の成績が上がるのを見るのが。

 次々と俺は問題を解き進めた。時に間違えて、翼に罵られた。だけど、それも苦痛じゃない。

 そして、二人が持ってきた問題集を全て解き終わる頃には時間がどれだけ過ぎたかなど全くわからなくなっていた。

「過去問やらせてくれないか?」

『わかった。上がっているといいね』

「そうだな」

 本当に上がっている事を祈りたかった。

『よーい始め!』

 理桜の合図で俺は解き始めた。今回もスラスラと解ける。間違っているところなど万に一つもあるものか。それほどの自信が今回の過去問にはあった。そして、全てが解き終わると、前回、前々回やった時と同じように答案用紙を機械にセットした。翼がその紙を見ると、それをじっと見て一度、二度と瞬きした。そして、もう一度見た。そして、無言で理桜に渡した。一体なんなんだ?もしかして悪かったのかもしれない。なんだか、突然自信が喪失してしまった。

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