びっくりするような擬人化作品
渋谷かな
第1話 「いつもあなたの側に。」
「こ・・・ここはどこ?」
生命誕生の瞬間。正確には擬人化誕生の瞬間である。何者かが目を開けた。視界はぼやけている。何度も目をパチパチさせて、視界を正常に戻そうと瞬きをしている。
「く、暗い? ここは洞窟の中?」
確かに真っ暗だった。何も見えない。何者かは辺りを見渡しても黒い世界しか見えなかった。
「こ、怖い・・・。」
不安が恐怖を生み出す。
「誰か! 助けて!」
何者かが恐怖からか大声で叫ぶ。しかし、返事は返ってこなかった。
「・・・ウエエエ~!? 暗いよ!? 何も見えないよ!? 誰か!? ここから出して!? 生まれてきてごめんなさい!? 許してください!?」
何者かは狂気乱舞して泣き叫ぶ。
「ああ~ん。」
その時、女の声が聞こえた。それと同時に暗闇だった洞窟に神々しい光が差し込む。
「おお! 神の光だ! 私の願い事を聞いてくださったのですね! ありがとう! 神様!」
何者かは出口を求めるかのように光へと導かれようとした。
「え?」
その時だった。光に被さり月食のように何かが、洞窟に放り込まれてくる。
「ええー!?」
何者かは、まるで隕石が自分に降り注ぐような光景を目の辺りにして絶句する。有名な叫ぶ肖像画のように。
「ギャア!? 潰される!? 助けて下さい!?」
何かが何者かを上から押しつぶすような感じになった。何者かは手足をジタバタさせて、泣き叫ぶしかできなかった。
「あなた? 大丈夫?」
「え?」
何者かは顔を見上げた。そこには透明な者がいた。何者かが初めて自分以外の者を見た瞬間だった。
「こんなものすぐに無くなるわよ。」
「おお!?」
透明な者の言葉通り、何かは大きなムチのようなものに奥の穴に運ばれて消えていった。
「た、助かった!? あなたは!? きゅ、救世主ですか!?」
何者かには透明な存在が救いの神に見えた。きっと偉大な神であろうと。
「そんな大袈裟な!? 私はただの唾液よ。」
何者かの反応に少し引き気味に答える。透明な者の存在は唾液であった。
「おお! 神の名前は唾液様というのですね!」
「だから大袈裟だって・・・。」
何者かは、まだ自分が何者か知らない。分かったのは目の前に神、唾液がいるということである。
「唾液様! 教えてください! 私はいったい何者なのですか! ここはいったいどこですか!」
何者かは神に尋ねた。自分は何者なのか、自分はどこにいるのかと。
「あなたの名前は虫歯菌。ここは人間の口の中よ!」
そして神は神託を下された。
「む、虫歯菌!? 私は虫歯菌だったのか!? そして、ここは人間の口の中!?」
何者かは、自分の名前、自分のいる場所を初めて知ったのであった。以後、何者かは虫歯菌と呼ぶ。
つづく。
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