第5話 仲間はいつも大切に

「クロムごめん!」


頭を深く下げる。


「頭を上げい。わしも悪かった。すまん」


頭を上げてクロムを見ると、自分と同様に頭を下げていた。


「クロム。私からも一言いい?」


真剣な口調で俺ら二人を見据える。


「なんじゃ?」


場が静まる。


「腹減った」


「「はぁ?」」


静かな夜、森の方までその声は響いていたと誰かわからない誰かが言ったそうな。





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「うまっ!」


「ね!クロムのシチューは格別なんだー」


本当においしい。


特にこのクリーミーさ加減が。


そんな感想を抱いている俺を余所に右に座っているクミルは次々に手を休めることなく口に運んでいる。


「おかわりもあるぞ」


そう自慢げに前の席で胸を張っているのはいい。


おかわりしたい、が今は今後の方針について決めなければならないのだ。


「クロム。俺にこの世界についてもっと色々教えてくれ」


それを聞いてクミルは食べるのを一旦停止する。


「明日連れていけば?」


クミルがクロムに問う。


「どこに?」


「そうだな」


俺を華麗に無視し、クロムが頷く。


「だから!」


「明日のお楽しみ!」


器用にスプーンを回した後、それをこちらに向けて言い放った。


なんだよそれ。


「クミル行儀悪いぞ」


「はーい」


このやり取りを見ていると二人は本当の親子に思えてくる。


実際そうなのかもしれないし、違うかもしれない。


でもこの光景はそう思わせる雰囲気を醸し出していた。


だからこそ不思議とこの光景を羨ましく思ってしまう。


それは多分、記憶がないのにも関わらず、それをとても懐かしく感じるところがそうさせているのだろう。


その後、クミルが家に帰り、俺とクロムは明日のために寝ることにした。





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「いつまで寝とるんじゃ。はよ起きんか」


もう朝か。


そして起きてもここは異世界だった。


「わかりましたー」


返事はしたものの、上体を起こそうとしても力が入らない。


ちゃんと寝たはずなのに、疲れが引いていないみたいだ。


「どうした?」


「いや体がだるくて」


起きなければならないのに体が言うことを利かない。


「ちょっと待っとれ」


それだけを告げるとクロムはキッチンへ何か取りに向かった。


昨日魔力を使い過ぎたせいだろうか。





「ほれ」





クロムからそれを受け取る。


このタイミングで渡してきたのだから栄養ドリンクみたいものだろう。


「さっさと飲まんか」


クロムに急かされる。


不安だが仕方ない。


決意を固め、それを口に一気に含むと即座に呑み込んだ。


「どうじゃ?」


「うまい」


色が緑だったので苦いイメージだったが、甘い抹茶の味だった。


「動いてみ」


あれ?


さっきまで体が動かなかったのに。


「お主は色んな魔法を昨日打ったんじゃ。無理もない」


そうか俺。


今後一生初級魔法しか使えないんだったな。


「はよ支度せい」


そうだ。


今日からダンジョン攻略の一つとしての知識を得るために、どこかに行くんだったな。


「急いで準備する!」


何を準備するの?と言った人たち。


何もありません。


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魔法の基礎。





人間は一応全種類の魔法を覚えることは可能である。


しかし、それを成し遂げたものはこの世に誰一人としていない。


否、いたとしても、その姿を見せたものはいない。





前提として今現在魔力が存在している場所は細胞内と判明している。





その魔力は生まれてから魔法を使うまで、無と呼ばれる。


そこに魔法を使うことによって、無から発動した魔法の属性によって名前が変わる。


火なら赤、水なら青など。


無から色がついた魔力は他の色に染まらない。


つまり、赤の魔力は火の魔法以外には使用できない。


人間の細胞は死んでは増えるを繰り返しているが、新しく作られる細胞に入っている魔力は前の魔力の色を引き継ぐ。


なので覚える魔法を火のみにした場合。


体の魔力は赤だけになり、火の魔法陣へ注ぐ魔力量が増え、結果的に極大魔法が発動しやすくなる。





では何故適正診断が必要か?ということだが。


先程は生まれてから魔法を発動していない魔力を無と言ったが、それでも微量に色が存在する。


それは親の遺伝によるものだ。


だからと言って両親共に赤なので、その子も赤と判断づけてはいけない。


それ関しては人間の血液型の仕組みに良く似ている。


ここでは置いておくが。





だからこそ、多くの種類の魔法を覚えると体の魔力はカラフルになり、一つの属性に対して多く魔力を注ぐことが不可能になる。


そのため極大魔法どころか下手をすれば下級魔法でさえ、使用することは不可能だ。


これがこの世界に全ての魔法を使えるものは存在できない理由である。


しかし、一つの魔法だけを使うものばかりではない。


中にはニ種類、三種類といる。


だが、複数使う上で初級魔法しか使えない魔法が存在する。





それがサポート魔法。


この魔法に関してはこの魔法一本でなければ、下級魔法以上が使えない。


この理由は未だに判明していない。


そのためサポート魔法を使えるものはレアとされる。





「ここまでと」


「すべて書いたのか?」


「まぁな」


家を出てから目的地に着くまでクロムに魔法のことを聞き、それを紙に書いていたのだ。


この世界でこんなに生物的に解明されていることが不思議であった。


なのに今紙に書いていたペンなんて、鉛筆やシャーペンではなく、インクを使う羽ペンなのだ。


頭使うところ間違っているのでないかと思う。


「もうすぐ着くぞ」


ここに来るまで徒歩三十分と言ったところである。


まだ森の中だが。





「やっと来た!」


森の出口でクミルが待っていてくれていたようだ。


「こやつが寝坊してな」


「いかんな青年」


朝から元気がいいこと。


「はいすみませんでしたー」


「なんか軽いんですけど!」


「早く行くぞ!」


クロムも大変だろうな。


クミルがこんなんだと。





少し歩くといくつかテントが見えてきた。


ここは何かの野営地だろうか?


頭をキョロキョロしていると、


「そんなに珍しいか?」


「いやだってここに何があるのかわからんし」


「それもそうじゃな」


記憶が欠けている上に、まだ村の中心にも行っていないのだ。


こんなの興味が惹かれん方が珍しい。


「連れてきたよー」


クミルがこの場で一番大きいテントの前にいる人物に向けて叫ぶ。


「クロムさん!おはようございます!また昨日お世話になったそうで」


身長は170cm後半、またしてもスタイル抜群、短い青い髪と目、なんと言ってもイケメンだ。


ちなみにクミルと同じ衣装に身を包んでいる。


「セリフィス!」


クミルが頬を膨らませる。


「あのー」


完全に置いてけぼりである。


「まず中に入ってから自己紹介しようじゃないか」


クロムは俺の肩に手を置いてみんなを促す。





「北のダンジョンの攻略を任された、ファービル隊隊長、セリフィスです」


案内された、テントは見た目の大きさの割には中は案外狭く、俺たち四人と後二,三人座れる程度である。


そこに時計の12時の方向に今、自己紹介したセリフィス。


3時の方向クミル、6時俺、9時クロムという並びで地面に座っている。


ちなみに自己紹介は時計回りらしい。


「ファービル隊副隊長、クミル。ちなみにセリフィスは私の弟ね」


「え!?」


反射的に反応してしまう。


「えって何よ?」


クミルが目を細めて、俺の返答を待っている。


「いやだってどちらかというと逆っぽいから」


「失礼ね!」


「よく言われます」


セリフィスは口を手で隠して笑っている。


でしょうね。


それを見て、


「こらセリフィス!」


案の定クミルが怒る。


なんだこの茶番。


「うるさいな!次お主行け!」


もうクロムは爆発寸前のようで、足がもの凄いスピードで貧乏ゆすりをしている。


「すいませんクロムさん」


「ごめーん」


セリフィスは礼儀正しく、クミルは福岡のcmみたいに謝った。


「えーと、自分は魔女の残り香で名前も何をしていたかもわかりません。でもダンジョンを攻略したくてここに来ました」


堂々と言ってみたのだが、この場での不適切さを改めて感じてしまい、肩身が狭くなる。


「いいじゃないか」


「うんうん」


「素晴らしいです」


そんな俺に三人が励しの言葉が行き交う。








「どうしたお主?」


「え?」


自分の気付かない内に、自然と目から涙が出ていた。


「何でもない!次クロム行ってみよ!」


涙を拭いながら泣いていたことを悟られないようにする。


多分俺はただただ嬉しかったんだ。


この状況が。


「ファービル隊指揮官、クロム・ファービル」


クロムがこの隊の。


まぁ薄々気づいてはいたが、ここに来る途中何人かの兵士らしき人物から敬礼されたし、決定打としてこの隊の名がそれを指し示していたしな。


「自己紹介はこれぐらいにして、今後だが。来週ダンジョンに潜入する。もちろんお主はお留守番だが、それまでこの隊は休憩期間とする」


いつもの爺さんのような喋り方ではなかった。


言葉一つ一つに覇気が感じられる。


今考えると俺は昨日こんな人につまらないことで頭を下げさせた。


普通であればあってはいけないことだ。


悔しさのあまり、無意識に手に力が入った。


「お主も行きたいだろうが、このダンジョンは東西南北と王都にある5つの中でも一番踏破された階層が少ない。危険だ」


「わかってる」


今思っていることを口に出せば、またクロムを困らせることになる。


昨日のことは忘れよう。


「了解です」


「了解っ」


セリフィスとクミルも返事をする。


「じゃお主にダンジョンについてとこの隊について説明するとするかのう」


いつもの喋り方に戻る。


「お願いします!」


俺は頭を下げて叫ぶ。


「やる気じゃな」





いつか俺はこの人達と戦いたい。





そう胸に刻んだ。


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