第4話 説明書は最初から最後まで読もう
魔法陣。
それは魔法を発動させるために必要なもの。
形は円形。
魔法陣はシュカ文字で構成されている。
シュカ文字とは、人間の体の細胞から魔力を出力させるための文字である。
シュカ文字の種類は297種類。
それぞれ魔法を発動させるために必要なシュカ文字の種類は、初級魔法30種類、下級魔法60種類、中級魔法90種類、上級魔法120種類、極大魔法150種類が使用される。
例えば火の魔法には上に書いてあるように、初級魔法で30種類必要。
これに30種類足すことにより、下級魔法が発動できる魔法陣が形成される。
ちなみにこの世界でシュカ文字一つ一つの意味を知る人物は、シュカ文字を作ったシュカと2、3人と言われている。
そのため魔法を習得する際にはシュカ文字はただ暗記するという行為が一般的である。
「マジかよ」
そこまで読んで本を閉じた。
せっかく探したのに。
まぁこれで魔法を習得する訓練に入れる。
クロムから貸してもらった本と先程まで読んでいた本を交換し、再び火の魔法のページを開く。
魔法陣のページを見るが、とてもこれをすぐ覚えるのは骨が入りそうだ。
しかし、初級というのに三十種類も必要とは。
というかまず俺には魔力はあるのだろうか。
ここで生まれた人間ならば細胞の中かどこかに魔力が存在するのだろうが、俺は元々この世界の人間ではないしな。
しかし、物は試しだ。
暗記に集中する。
円形。
円形の線に従って並ぶシュカ文字。
三十種類もの文字。
時計周りに進める。
円の中心へと向かう。
中心には三十種類目の文字が一つ。
それを目を瞑って頭に思い浮かべる。
文字が欠けていた場合、本を見て確認する。
「三十種類目!」
最後の文字を頭の中の魔法陣の中心に文字を当てはめる。
右腕を垂直に上げ、手を広げる。
自分の手のひらの先に魔法陣をイメージする。
目を最大まで広げると同時に、
「「フロガ!!!」」
次の瞬間、その魔法陣から小さいが赤い火の玉が真っ直ぐ飛んで行き、後に弾けて消えた。
「おおーーー!」
発動させるために一時間とかかってしまったが、発動させた感動は抑えきれない。
試しにもう一度発動させる。
「「フロガ!」」
今度はタイプを変え、火を放つ方にする。
距離も線も細いがちゃんとそれは出た。
残りの一つも発動させる。
「「フロガ!」」
今度も無事魔法陣の前に火がろうそくのように維持されている。
この三つは頭で「これを出したい!」と思えば出るみたいだ。
魔法が発動できるということは自分にも魔力が存在するらしい。
もし細胞の中ならどこに?
人間の細胞は動物細胞である。
その細胞の中には、核、ミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体、リボソーム、リソソーム、中心体、細胞質基質、細胞膜が存在する。
植物細胞と共通な所や違う点が存在するが、今は置いておく。
もしあるとすれば、核の中だろう。
あそこには染色体が存在するからだ。
しかしこんなの考えてもわからない。
高校で習った生物では太刀打ちできやしない。
これに関しては考えない方向でいくのが妥当かもしれない。
「次行くか!」
それから俺は日が暮れるまで魔法を覚えた。
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「ただいま」
「おかえり!クロム!腹減った!」
日が暮れてから一時ひととき経ってクロムが帰宅。
「そう言えばお主一日何にも食べ取らんかったな」
そうなのだ。
この世界に来てからというもの半日以上何も口にしていない。
さっきから腹の虫が鳴りっぱなしだ。
「用意するから待っておれ」
「ていうかさ俺魔法覚えたぞ!」
調理を開始しようとするところを止める。
「おぉ覚えよったか!でどの属性じゃ?」
クロムもどうやら興味津々のようだ。
「どの属性って?もちろん全部だ!」
クロムに指を指して言い放った。
「今なんて?」
瞬きを繰り返すクロム。
「だから全部って」
「ちゃんと読んだのか!?」
なんで怒られるのか意味がわからない。
「ちょい貸せい」
クロムがベットにあった初級魔法の本を手に取る。
「ここに書いてあるじゃろ!」
クロムが指を指しているページは注意事項であった。
最初に読まず、シュカ文字を探すときにも読まなかったページだ。
「何々」
目を凝らしてそのページを読み進める。
「魔法を覚えるより前に最初に属性診断を行う」
そこまで読んでから一回固まる。
「ほれ」
クロムに促され、診断法を飛ばして、次の項目を読む。
「これを行わずに数多くの属性魔法を習得した場合、数によるが極大魔法、上級魔法、中級魔法、下級魔法が発動できなくなる可能性がある」
俺って数という問題ではない。
初級魔法すべてを習得してしまった。
「これって」
「そうお主は下級魔法ですら扱えん」
クロムの言葉はわかっていたが、言われると辛い。
自分がこの世界に来た理由を知るために、ダンジョン攻略しなければならないのに、これでは不可能ではないか。
思わずその場に倒れこむ。
「お主?」
「ちょっと外出てくる」
さっきまで鳴っていた腹の虫は鳴らなくなっていた。
半日も食べていないのにまったく食欲がない。
今日一日いた草原は昼のときは暖かったが、今は冷たい。
そこに寝転ぶ。
空には自分の住んでいる地域では見れないぐらい数多くの星が輝いていた。
「きれいだな」
「ほんとね」
そこにいたのはクミルだった。
「この景色と相まってとても美しい」、なんて本人に言えばまた腹を抱えて笑われるだろうか。
でもそんな気力は今の自分にはなかった。
「どうしたの?クロムは?」
「あーまぁ色々とね」
正直誰とも話したくない気分であった。
今思うとこんな気持ちは自分でも不思議だったのだ。
何にも夢のなかった自分がここまで熱中して取り組んだのだから。
それを意味がないとなったのは、ひどく心が痛い。
「ここよりきれいな場所あるよ。行く?」
昼とは違いとてもやさしい口調。
美人に気遣ってもらったんだ。
行かないわけない。
「お願いします」
「クミルさんはクロムとどういう関係なんですか?」
「昔ね」
草原では星の明かりでクミルの顔は見えていたのだが、森の中は案外暗く、先頭を歩くクミルの顔は窺えいが、声のトーンの低さでその先を聞くのを断念する。
「見えてきたよ」
森を抜けた先に空の景色が映った湖があった。
「すごい」
ここでもっといいことが言えたらいいが、語彙力がないのと、言葉で言い表すことが今の自分では不可能だった。
「どう?来てよかった?」
この人は人の感情をよくわかっていらっしゃる。
きっと優しい性格の持ち主なのだろう。
そんな人にここまでしてもらったのだ、話さないわけはいかないだろう。
「実は・・・」
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「そっかー。でもクロムもいじわるよね。教えなかったのと魔女のゴミだなんて」
さすがに元々はこちらの世界の人間ではないと言えなかったので最初から自分を初めて魔女のゴミと名乗った。
しかし、前者は共感できるが、後者はわからなかった。
「後者のどういう意味ですか?」
「えっと、確かに記憶を魔女に捨てられた人を魔女のゴミって言う人もいるけど、一般的には魔女の残り香っていうんだよ」
「俺が魔女の匂い?」
「そ。最初の記憶喪失者の人から魔女の匂いがしたから、魔女の残り香」
俺の存在は匂いかゴミってことか結局どちらも嫌だな。
そう考えると自然と笑みがこぼれた。
「やっと笑った!」
「いや匂いもゴミも嫌だなって」
まさかこの人俺を笑顔にしようとしていたのか。
「近くで湖見てよ!もっとすごいから!」
俺の腕を引っ張るクミルは先程までの落ち着いたそれではなく、昼のときのクミルであった。
クミルに薦められ近くで湖の水面を覗く。
「鏡みたいだ」
「でしょー」
そこには身長180cm、体重65kg、細身で髪は短く、部屋着のジャージを着ていて、一年洗っていないお気に入りのスニーカーを履いた冴えない自分とクミルがいた。
「クミルさん本当にありがとうございました」
小さい頃から親に感謝を忘れるなと育てられてきたのがここでも発揮される。
「そんな堅くなくていいよ。タメ口で。後クミルでよろしく!」
「わかったよ。ありがとクミル」
「どういたしまして」
そうだ初級魔法だからと言ってダンジョンを攻略できないわけではない。
知識とパーティでカバーすればいい。
そしてみんなに言ってやろうじゃないか。
「「「初級魔法をショボイと言わせない」」」
と。
そう心に誓い俺は歩き出す。
今立ち止まるわけにはいかないのだから。
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