第6話 初めて見た戦闘はゴリラ退治だった

ファービル隊。


王都からダンジョン攻略の任務を受けた隊の一つ。


数ある隊のなかでもトップクラスの実力をもつが、隊の構成人数はダントツで少ない。


基本王都から任務を受ける隊の構成人数はどの隊とも人数に偏りもなく、平均的なのだが、ファービル隊だけはその縛りを受けていない。


その理由に関しては不明である。


このファービル隊の人数の少なさには、入隊の困難さも存在する。


まず過酷な試練を受け、その後に指揮官クロム・ファービルに認められたものだけが入隊を許可されるというものだからである。


過去に村一番でファービル隊に入隊確定と皆から言われたものがいたそうだが、試練を突破できず、入隊を許されなかった、さらにその後他の隊に入ることなく去った人物がいたそうだ。


その人物が現れてからというものの入隊志望者自体が減少、隊の人数はここ三年間増加していない。





このような話をセリフィスに聞かされたせいか、この人達と戦いたいという希望を保てなくなっていた。


「まぁ確かに試練は難しいし、どうやったらクロムに認めてもらえるかって考えているだろうけど、たった一回しか受けられないってわけじゃないから!何回も挑戦すればいいと思うんだけど・・・」


頑張って俺を励ましてくれるが、後半は言葉に力がなくなっていた。


多分何回も挑戦した人物などまずもって存在しないのだろう。


一回受けて、落ちて、他の隊にも入隊しなかったという話があればそんなものわかってしまう。


試練自体の内容をよくはわからないが今の俺では到底こなせそうじゃないな。


「はぁ」


思わずため息もついてしまう。





「あれ?どうしたの?」


昼飯を取りに行っていたクミルとクロムが帰ってきていた。





「まぁるほろねぇ〜」


クミルさん。


関心しているところ悪いのだが、そんなに口に頬張っていると・・・。


「行儀が悪いと何回も!」


やっぱり飛んできた。


いつも通り叱り終えたクロムは、視線をこちらに移す。


「お主よ。お主がこの隊に入りたいというには理解したが、今現在わしはお主を入隊させようという気は一切ない。せめてこの世界を見て回り、力をつけてからわしのところに見せに来い。その時は考えてやらんこともない。もちろん他のものと同じように入隊の試練を受けてもらう。贔屓ひいきなんぞ絶対せんからな」


クロムの顔は俺が必ず挑戦し、そして自分を必ずうならせろという願望を抱いていた。


「当たり前だ!必ずこの隊に入ってやる!」


俺は立ち上がりクロムに拳を突き出した。


「おう待っとる」


クロムも拳を、


「私も!」


「僕も」


セリフィスとクミルも加わり拳同士をぶつけあった。








ダンジョン。


この世界の東西南北と王都にそれぞれ一つずつ存在する。


十五年前に突如現れたそれは、場所によって異なるが百層以上で構成されている。


中にはモンスターが闊歩しており、階層を重ねるごとに、モンスターの強さ、数が上がっていく。


現在は何のために出現し、どのような経緯で誕生したのかは不明であるが、人によっては神が下したものだと言っているものもいる。


そう言った神の存在を訴えるうちに宗教が誕生した。


その人達から頂上に行けば何でも願い事を叶えてくれるというの噂も広められた。


その噂も現在、真実か嘘かは頂上に到達していないので知るよしもない。





次にダンジョン難易度であるが、順に南、西、東、北、王都になる。


これは基本突破階層によって決められたものだが、現在北よりも王都の方が突破層が多い。


その理由として、場所が王都であるからと北のダンジョンの場合、ダンジョン入口にもモンスターが出現するためである。


調査を行っているが現在も何故北のダンジョンの入口にモンスターが出現するのかは判明していない。





「つまり北のダンジョンがモンスターとの戦闘が多いから、攻略は後回しだったということ?」


「そうじゃ。お主がここに来る前の日も戦闘をしておった。入口付近のモンスターは何故か異常なほどに強くてのこのダンジョンの二十階層のモンスターと同レベルじゃった。だからこそ一週間前からここに張り付いてモンスターを片付けておったのじゃ」


「じゃあさ、このダンジョンの中に何日いるの?」


「そうじゃな、何層まで行くかわからんが一か月はおるじゃろうな」


なら俺はこの人とそんだけいられないってことか。


「それで明日買い出しに行くが一緒に行くか?泊りがけじゃが」


「行くー」


クミルが飛び込んでくる。


「姉さんは武器の調整だろ!」


クミルがモテない理由の一つを垣間見た。


逆にこれがいいと言う人もいるだろろうが。


「もちろん行くさ」





「「指揮官!!!緊急です!!!」」





そんなほのぼととした空気を壊すかのような声で男の兵士がテントに慌てて入ってきた。


「ラリーゴが」


息をきらしながらもこちらにちゃんと聞こえるようにその名を言った。


ラリーゴとは?


「全員戦闘に入れるものは戦闘態勢!」


「「「おぉー!」」」


そのクロムの叫びの後、皆が呼応した。


その叫びで気付かなかったが、俺の近くにいたはずのクミルとセリフィスの姿はなかった。





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「よしお主はここで待っておれ!」


?。


返事がない。


「お主!」


まさかラリーゴのとこに。


待っておれ!


お主!





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テントから少し離れた平地にそれはいた。


でかい。


それはどこから見ても3メートルの体長をもつただのゴリラであった。


「「ゴォーーー」」


その咆哮と同時に二人の人物が駆け出す。


セリフィスとクミルだ。


クミルは一定距離を取ると左手で魔法を発動させた。


その瞬間尚も走っているセリフィスの体が光る。


何かの支援魔法か何かだろうが、その時はそれが何の魔法かなんて理解できなかった。


セリフィスは魔法の支援を受けたままラリーゴの足元へ向かう。


ラリーゴが腕や足を体格からは思わせない器用な動きでセリフィスを追い払おうとするが、そのすべてを躱せれていた。


その攻撃の応酬中、ラリーゴが右手での攻撃を外し、地面に直撃したのを見て、セリフィスが瞬時にその巨体の右側にまわる。


そしてまたしても支援魔法によりセリフィスの体が発光する。


しつこく纏わりつくセリフィスに対して今度は左腕での攻撃を仕掛けようとする。


その瞬間を待っていたと言わんばかりに、その動作と同時にセリフィスは背中に手を伸ばす。


そんな一人とゴリラだけの戦闘に一本矢の介入が起こる。


その矢はクミルが放ったものであったが、その命中率は底知れず、見事にラリーゴの右目を射ていた。


その隙にセリフィスは背中に携えていた弓の湾曲部分で足に斬撃を加えた。


弓の使い方が違う気もするが、よく見ると湾曲部分が光っているので鋭利な刃物仕様なのかもしれない。


「セリフィス!」


クミルは叫ぶと再びに矢を放つ。


今度は左目に命中する。


クミルの弓も見た目から多分セリフィスと同じものだろう。


それにしてもなんて命中率。





そんな驚きを置いて、また別の驚きが現れる。





「え!」


俺はその行動を見て、自然と声が出る。


命中したのを確認し、セリフィスがこちらに引き返したのだ。


その後クミルとハイタッチし、前衛と後衛が交代する。


「テニスかよ」


クミルは交代からスピードを緩めずにラリーゴに詰め寄り、目を押さえていてノーガードの腹に斬撃を加える。


「「ゴォーー」」


ラリーゴが雄叫びを上げる。


そして入れ替わりの後衛から、


「アネモススト!」


セリフィスによる魔法が発動する。


発動した後、矢に風が纏わりつく。


あれは風の魔法アネモス。


「放て!」


クミルが指示を出す。


それに頷き、セリフィスが矢を放つ。


それは先程斬撃を加えていた腹へ真っ直ぐ直撃した。


攻撃を受けたラリーゴは再び雄叫びを上げることなく光を発し、小さい一つのキューブに成り果てた。

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