三
街中を私達はぶらぶらと歩いた。
王子と気づかないせいか、街の人は気さくに佳緒留に話しかける。勧められるまま、私達は焼きりんごを食べたり、花束を買ったりと、なんだか屋台で遊んでる気分になった。
?
屋台。
なにそれ。
ふと自分が思った事に戸惑う。
やっぱりおかしい。
時たま不思議な情報が頭の中に入ってくる。
「ちょいと、そこの者たちよ」
ガラス張りの建物を通り過ぎようとすると、フードを深くかぶったミステリアスなカエル族に呼び止められる。
佳緒留は私の肩をぐいっと掴むと足を早めた。
「ちょっと、佳緒留、呼んでるよ」
「いいんだ。あれはいんちきな占い師だから」
「いんちきとはないんじゃないかい」
身近に声が聞こえ、私達はびくっと足を止める。いつの間にかその占い師が私達の前に立っていた。
「王子様、今迷っているんだろう?愛する者の幸せをとるか、自分の幸せをとるか。迷うことはない。自分の幸せを選べばいいのさ」
占い師は女性だったらしく、そう言うとけっけっけと高笑いをする。
何?気持ち悪い。
だから佳緒留はいんちきって言ったのか。
結局、その占い師に会ってから、佳緒留は考え込むがことが多くなり、楽しめないまま、お城に戻る時間になった。
「並様、ではごゆっくり」
江美はそう言うと浴室から出て行く。
私は安堵するとドレスを脱いだ。
ピンク色の肌、つるつるした感触。
私はそれに違和感を覚える自分に戸惑う。
おかしい。
なんだかおかしい。
私は葉っぱの形をした浴槽からお湯をすこし汲むと、体に掛ける。そして中に入った。
「ぷふぁあ」
気持ちいい。
足元から癒される感じ。江美がお湯の中に何か良い香りするハーブをいれたみたいで、全身で心地よさを感じた。
お湯にはいくつもの泡が浮かんでいて、私はその泡を掴もうとしてみる。でもつかめるはずがなく、泡はぱちんと弾けた。
『ママ。泡いっぱい』
『うん』
ふいにそんな会話が脳裏に蘇ってくる。私はいつの記憶、何の記憶だろうと目を閉じて、考えてみる。
でもその試みは佳緒留の声で打ち切られた。
「並。ちょっといい?」
「!だめ、今お風呂から出るから待ってて!」
私はざばっと浴槽から出るとタオルで体を拭う。そして慌ててドレスを羽織ると、外に出た。
「ごめん」
部屋にいた佳緒留は元気がなく、その茶色の瞳が悲しみに沈んでいた。
あの占い師のせいだわ。
「佳緒留。気にしなくて良いと思うよ。自分の幸せを願うのは当然だし。ね?」
インチキ占い師の言ってることはよくわからなかった。
でも彼はその言葉で傷ついているのは確かだった。
「並。ごめん。僕は君が好きだ。離したくない」
佳緒留は私に近づくと目を瞬かせて、そう言った。
「私も好き。離さなくていいから」
彼と一緒にいるのは幸せだ。
だから結婚するんだから。
「並」
佳緒留は私の頬を掴むとそっとキスをする。そして私をひょいっと抱き上げ、ベッドに運ぶ。
ベッドに降ろされ息ができなくなるような深いキスをされ、私は思わず逃げるように顔をそむけた。
「だめだよ。並」
佳緒留はそう囁くと、私の両手を絡みとり、再度キスをする。
それは私の脳を刺激し、息を吐くのと同時に声が出てしまう。
うわあ。
キスだけなのに。
「並。大好きだ。だからごめん」
真っ赤になる私を切なげに見つめ、佳緒留はそうつぶやく。
佳緒留?
どうして?
いつも謝ってばかり。
謝ることなんてないのに。
私も佳緒留のことが好きなのに。
戸惑う私に彼は悲しい笑みを見せ、私の胸に顔をうずめた。
「佳緒留様」
トントンとノックする音がして、彼は顔を上げる。
「何事だ?」
「王がお呼びです」
「わかった」
王子様は溜息をつくと、私の頬に軽くキスをする。
「並。もう遅いから先に寝てて。今日はもう邪魔しないから」
佳緒留はベッドから降りると部屋を出る前に再度振り返る。
「おやすみ」
「あ、うん。おやすみ」
体を起こして私は彼に手を振る。彼は笑顔を見せると扉を開け、警護兵に一言二言話すと出て行った。
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