街中を私達はぶらぶらと歩いた。

 王子と気づかないせいか、街の人は気さくに佳緒留に話しかける。勧められるまま、私達は焼きりんごを食べたり、花束を買ったりと、なんだか屋台で遊んでる気分になった。


 ?

 屋台。

 なにそれ。


 ふと自分が思った事に戸惑う。

 やっぱりおかしい。

 時たま不思議な情報が頭の中に入ってくる。


「ちょいと、そこの者たちよ」


 ガラス張りの建物を通り過ぎようとすると、フードを深くかぶったミステリアスなカエル族に呼び止められる。

 佳緒留は私の肩をぐいっと掴むと足を早めた。


「ちょっと、佳緒留、呼んでるよ」

「いいんだ。あれはいんちきな占い師だから」

「いんちきとはないんじゃないかい」


 身近に声が聞こえ、私達はびくっと足を止める。いつの間にかその占い師が私達の前に立っていた。


「王子様、今迷っているんだろう?愛する者の幸せをとるか、自分の幸せをとるか。迷うことはない。自分の幸せを選べばいいのさ」


 占い師は女性だったらしく、そう言うとけっけっけと高笑いをする。


 何?気持ち悪い。

 だから佳緒留はいんちきって言ったのか。


 結局、その占い師に会ってから、佳緒留は考え込むがことが多くなり、楽しめないまま、お城に戻る時間になった。


「並様、ではごゆっくり」


 江美はそう言うと浴室から出て行く。

 私は安堵するとドレスを脱いだ。


 ピンク色の肌、つるつるした感触。

 私はそれに違和感を覚える自分に戸惑う。


 おかしい。

 なんだかおかしい。


 私は葉っぱの形をした浴槽からお湯をすこし汲むと、体に掛ける。そして中に入った。

 

「ぷふぁあ」


 気持ちいい。


 足元から癒される感じ。江美がお湯の中に何か良い香りするハーブをいれたみたいで、全身で心地よさを感じた。

 お湯にはいくつもの泡が浮かんでいて、私はその泡を掴もうとしてみる。でもつかめるはずがなく、泡はぱちんと弾けた。


『ママ。泡いっぱい』

『うん』


 ふいにそんな会話が脳裏に蘇ってくる。私はいつの記憶、何の記憶だろうと目を閉じて、考えてみる。

 でもその試みは佳緒留の声で打ち切られた。


「並。ちょっといい?」

「!だめ、今お風呂から出るから待ってて!」


 私はざばっと浴槽から出るとタオルで体を拭う。そして慌ててドレスを羽織ると、外に出た。


「ごめん」


 部屋にいた佳緒留は元気がなく、その茶色の瞳が悲しみに沈んでいた。

 あの占い師のせいだわ。


「佳緒留。気にしなくて良いと思うよ。自分の幸せを願うのは当然だし。ね?」


 インチキ占い師の言ってることはよくわからなかった。

 でも彼はその言葉で傷ついているのは確かだった。


「並。ごめん。僕は君が好きだ。離したくない」


 佳緒留は私に近づくと目を瞬かせて、そう言った。


「私も好き。離さなくていいから」


 彼と一緒にいるのは幸せだ。

 だから結婚するんだから。


「並」


 佳緒留は私の頬を掴むとそっとキスをする。そして私をひょいっと抱き上げ、ベッドに運ぶ。

 ベッドに降ろされ息ができなくなるような深いキスをされ、私は思わず逃げるように顔をそむけた。


「だめだよ。並」 


 佳緒留はそう囁くと、私の両手を絡みとり、再度キスをする。

 それは私の脳を刺激し、息を吐くのと同時に声が出てしまう。


 うわあ。

 キスだけなのに。


「並。大好きだ。だからごめん」


 真っ赤になる私を切なげに見つめ、佳緒留はそうつぶやく。


 佳緒留?

 どうして?

 いつも謝ってばかり。

 謝ることなんてないのに。


 私も佳緒留のことが好きなのに。


 戸惑う私に彼は悲しい笑みを見せ、私の胸に顔をうずめた。


「佳緒留様」


 トントンとノックする音がして、彼は顔を上げる。


「何事だ?」

「王がお呼びです」

「わかった」


 王子様は溜息をつくと、私の頬に軽くキスをする。


「並。もう遅いから先に寝てて。今日はもう邪魔しないから」


 佳緒留はベッドから降りると部屋を出る前に再度振り返る。


「おやすみ」

「あ、うん。おやすみ」


 体を起こして私は彼に手を振る。彼は笑顔を見せると扉を開け、警護兵に一言二言話すと出て行った。

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