第三章「闖入者」

 なんだ、正夢か。本当、勘弁してほしい。なんでせっかく平和そうな異世界に来たのに、正夢を見せられて、空に浮かぶ扉、そこから出てくる球体なんて、マジなんなんだろう。

 こういう状態に陥ったときにさらに悪化するときは絶対にこうなる――

「あの、ナツキユウヤさんですか」

 ほら、なんかきたよ。どうせ、戦ってくれとか、そんなのだろう。こんなの、昔から相場が決まっている。いやでも、もしかしたら、戦うじゃなくて国から出て行けかもしれない。そっちだったら楽なような気がする。

「それと、モカさんですね。」

 どうやら、呼ばれたのは俺だけではなかったらしい。モカにも出て行けとかいったら、どうするのだろう。うーん、まあ、男女だし、子孫繁栄はできるな。

「城へお願いします。国王がお呼びです。」

 国王直々の呼び出しらしい。俺、ただの剣道部なんだけど。ていうか、こんだけ江戸みたいな国なのに征夷大将軍とかじゃなくて国王なのか。将軍とか天皇ならまだわかるんだが。いやでも、江戸だから将軍か。

 兵士に半ば強制的に城――尚城のほうは将軍が居座るような城である――に連行される。国王からの呼び出しだと言っていたし、おそらく拒否権はないのだろう。


 ギリギリギリギリ、と耳の痛くなるような音を立てながら城の門が開いた。そんな持ち物検査もせずに簡単に他人を中に入れてしまっていいのだろうか。どうも、この国のセキュリティに疑問を感じる。

 別に俺は国家転覆など図ってなどいないし、そもそもこの国の人間でもないのだから気にしたってしょうがない。


 中に入ればそこは和室、なのかと思いきや中はバリバリ西洋の城風だった。本当、なんなんだろう、この国。もう少し相性ってものを考えたりはしないのだろうか。

 暫く進んで大きな階段を上る。階段には当然と言わんばかりに赤い絨毯が敷かれていて、大理石と思われる手摺のようなものが付いている。

 階段の上には大広間と呼べばいいのだろうか、謁見の間といったほうがいいのだろうか、三十メートルくらい先には小太りのおっさんもとい国王が紋付を着て、王座に座っている。

 もはや何も言うまい。

 と、進んでいった兵士は頭を下げて、

「ナツキユウヤ、柳澤モカ殿の二名、ただいま連れてまいりました。」

 おい、なんで俺には敬称をつけないでモカには殿ってつけるんだ。流石の俺でも怒るぞコラ。

「うむ、面を上げい。」

 はっ、と威勢のいい声を上げてクソ兵士が顔を上げた。早く本題に入ってくれないかな。

(なあ、モカ、俺らに何の用があると思う?)

 奴らに聞こえない程度の小さな声で話しかける。モカはぽかーんとしたあと、

(あっ、そういう考え方もあるのか)

 とこれまた小さな声でつぶやいた。なんだろう、思考の順序が違うらしい。

 まあ、それはそれとして、王は立ち上がりこちらへよってきた。

「単刀直入に言おう、あの球体を調査してほしい」

 球体の調査とな。球体の調査――

「は???」

 思わず間の抜けた声を出してしまう。

 なんで俺たちが、あんな見るからに禍々しくて触っただけで呪われそうな球体の調査なんてしなきゃいけないのか。

「うむ、そうなるのもうなずける。だから、一つずつ、それぞれのほしいものを揃えてやろうじゃないか。」

 いい人なのか偉そうなのか、あまり得意なタイプではないが、この国での王の評価を知らないのでなんとも言えない。

「ところで、なんで俺らなんです?」

 これくらい聞いても許されるだろう。

「なっ、貴様! 王様に口答えするのか!」

 王様云々ではなく、兵士のほうがキレたんだが、何様なのだろう。こういう、偉そうな下っ端は大嫌いだ。とは言っても、王の側近も兼ねているようだし、そこまで下っ端というわけでもないのだろうが。

「街の者共が、道場で稽古をしておったろう。そこでな、オヌシの名前が出たのだ。というわけで、徴兵だ。オヌシは何を望む?」

 何を望む、と言われましても、スグには決められないのだが……。

――もしかして、これは戦わねばならない感じだろうか。

「ああ、そうだ。刀を作ってもらえないですかね?」

 沈黙が流れる。あれ、俺変なこと言った?

「刀って……なんだ……。」

 あー、そういう。

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