夢を見た。

 それはなんだか不思議な夢で、そうだな、悪夢と表現するのが一番適切かもしれない。

 なんだか邪悪なものが攻めてくるような、そんな夢。

 みんな、明晰夢は自分の思い通りになるよ、と言うけれど、全然そんなことはなかった。

 自分でもこれが夢だということは分かる。けれど、どうしようもない。体も全然動かない。でも、自分はこれが夢だと分かる。

 なんとも、不思議な気分だ。あまり夢を見ることはない。いや、見ているのかもしれないが、朝になったら忘れている。だから、夢の感覚というものがイマイチ分からない。

 だが、これが夢だということだけは分かる。

 自分は宙に浮いていて、何か扉のようなものが見える。扉は少しだけ空いていて、そこから闇が溢れ出している。

 扉は少しずつだけれど開いていく。闇はどんどん深くなっていく。

 闇は世界を覆いつくして、そしてやがて、何も見えなくなる。

 何も見えないはずなのに、扉が見える。扉から、今度は何か、とてつもなく球体が出てくる。

 ゆっくりと動くその球体はあるところまで移動するとふっと動きを止める。

 既に何も見えないほど深かった闇はさらに深くなり、球体はかすかに残っていた光という光をすべて喰い散らかす。

 いつの間にか扉は消えていて、そこには球体だけが残っていた。

 球体はこちらへ近づいてくる。その質感は現実とそっくりで、本当に夢なのか疑ってしまう。

 しかし、これは紛れも無い夢で、やっぱりそれは何故か分かる。

 夢で無いような気がしているのに、それが夢だということがわかる。

 不思議だ。

 やがて球体から生命体が現れはじめる。それが本当に生命体なのかはわからないが、動いているし、たぶん生命体なのだろう。

 それは喩えるなら妖怪、決して大きくはないがとても恐ろしい、そう、まさに妖怪だった。


 ふっと、目が覚めた。隣のモカも同じように起き上がっていた。

 目と目が合う、手と手は、触れない。そういえば、日本に居たとき国民的大喜利番組でそんなネタをやっていた人が居た気がする。

 二人して起き上がって、適当に朝食を食べる。

 たぶん、モカも同じ夢を見ていた。なんとなく、そんな気がする。確信は持てないが、なんとなく、そんな気がするのだ。

 そして、おそらく、同じ不安に駆られている。

 街は、大丈夫だろうか。

 朝食を食べた俺たちは、着替えてから小走りで向かう。

 街へは無事に着くことができた。みんな、大丈夫そうだ。

 とりあえず、ウェバーへ行ってみる。

 まだ朝だが、既にシュテファンは起きていた。適当にカウンター席に座って仕込みをするシュテファンと話をする。何か不思議な夢を見なかったか、とか、昨日の夜で何か変わった出来事はなかったか、とか。

 モカとは何も話していないが、どうも聞きたいことがなんとなく一致している。これは、本格的に同じ夢を見ていたのかもしれない。別に、他人と同じ夢を見ることはない、という確証もあるわけではないし、とりあえず今は状況を整理することが重要で――


「キャー!!」


 外から悲鳴が聞こえた。半ば反射的に俺とモカは立ち上がり、店の扉を開けた。

 空を見上げれば、そこには大きな扉のようなものが出現していた。

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