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「ってなことがあって、泥酔してぇ。」
俺はウェバーのカウンター席に突っ伏してシュテファンに愚痴を垂れた。
モカはオレンジジュースをチビチビと飲んでいる。
「お前、昨日初めて酒のんでボロボロだったじゃねぇかよ……無茶するな……。」
「無茶ってお前、日本酒だからな。ビールならいけるぞ! 絶対だ!」
いや、本当はそんなに自信はないのだが、こうでも言わないとシュテファンは酒を出してくれないような気がする。
「分かったよ、生でいいな。」
「ああ、生でたのむ。」
この、「生をたのむ」みたいな、注文の仕方、一度してみたかったのである。なんか、ロマンあるやん。
「はいよ、生。」
そういって出てきたのは、日本でも見慣れたビールである。何も不思議な点などないのだが、ここで見ると少し不思議な気分になる。
そういえば、ビールは苦いと聞く。どんな苦味なのか、想像もつかないわけだが、飲んでみないことには何も始まるまい。
いざ、尋常に勝負!
「にっが!!!!!!!!!」
ここ最近で一番大きな声を出した気がする。目の前に居たシュテファンや真横にいるモカはもちろんのこと、他の客、さらには通行人までに見られた。
「ハッハハハ! 子供にゃまだ早いやな!! ハッハハハ。」
シュテファンが小馬鹿にしたような口調でおう言った。
「おうよ、やってやろうじゃねぇか。」
俺は浴びるようにビールを飲み、そしておかわりを注文する。
ビール地獄の始まりである。
「もう一本よこせェ……。」
なんて言いながら、ずっと俺は飲み続けた。
* * *
結局、悠椰はつぶれてしまった。負けず嫌いなのか、馬鹿なのか、よくわからないけれど、さすがに二日連続で悠椰を置いていくわけにはいかない。
閉店時間少しあと、シュテファンさんに手伝ってもらって、悠椰を引きずる。
家に付く頃にはもうすっかり深夜帯で、まともに前が見えないようなほどであった。
「ありがとうございました。」
「いやいや、いいってことよ。ところで、布団二枚ってお前ら、同じ部屋で寝てるのか?」
「はいそうですけど。」
何か、問題でもあるのかな。
「……実にけしからん…………不健全だ……。」
シュテファンさんはそうつぶやきながら街のほうへ帰っていった。
* * *
起きると、また頭が痛かった。自分でも自分のことを馬鹿だと思う。これからは、もっと酒の量を減らそう。
横を見るとまだモカはぐっすりと寝ていた。ちょっとそういうことを考えてしまった自分を通常恥ずべきなのかもしれないが、思春期の男女が同じ部屋で寝て何も起こっていない、これはほめられてもいいことだと、俺は思う。まあ、別に普通なのかもしれないが。
たまには、朝飯を作ってやってもいいだろうか。モカにアレルギーがあるとか、そういったことはなさそうなので、とりあえず日本風の朝食でも作ってやろうか。
蔵に何かあるかと思ったが、日本食が作れそうなものは何一つなかった。
この世界では正確な時間はわからないものの、まだそこまで遅くはないはずである。モカも昨日遅かっただろうし、さて魚でも釣ってやろうか。
蔵の中から古めかしい釣竿を取り出した。糸はまだまだ使えそうだし、針も大丈夫そうである。問題は餌だが、川釣りだし、きっと石の裏にでも張り付いているだろう。
川へ行くと、小さな子供がわちゃわちゃやっていた。どこの世界でも、どうやら子供はやんちゃな生物、ということに変わりはないようである。
万が一あの子たちに針が刺さってはいけないので、そこから少し離れた上流のところで石を裏返してみたところ、案の定沢山あのうにょうにょした芋虫みたいな奴がいた。
実はあまり得意じゃないが、これも仕方ないことだと割り切らねばなるまい。
意を決して背中に針を突き刺す。なんともいえない汁が少し飛び出すが、物怖じせずに背中、反対側から針を出す。
これで準備は完了である。
投げ込むと、まさに入れ食い、すぐに大きな魚が食らい付いてきた。
そのまま釣り上げると、どうやら虹鱒のよう。虹鱒は塩焼きが個人的に好きだ。つったその場で即席で竈を作って焼くの、いいよな。
次につれたのも虹鱒、とりあえずこれで二人分のおかずはクリア。そういえば、夏で全然暖とかとらないからすっかり忘れていたが、あの家には囲炉裏があるんだった。虹鱒を囲炉裏で焼く、いいシチュエーションじゃないか。
結局にじますが四匹釣れた。全部塩焼きにして朝に食べてしまおう。蔵に魚を貯蔵できそうな設備はなかったし、他に選択肢はあるまい。
本当なら、他にも何か魚がほしかったのだが、やはりあの虫で釣るには虹鱒が限界なのだろう。竿もあまりいいものではなさそうだし、もっと大物を狙うとしたら、また今度にしよう。
帰ると、丁度モカは起きたところのようだった。寝癖がすごいことになっている。
「何その魚。」
どうやら機嫌があまりよろしくないらしい。
「いや、朝飯にしようと思って釣ってきたんだ。炭あるか?」
「そりゃもちろんあるけど、どうやって調理するの。」
「いいから見ておけって。」
俺は蔵に釣竿を戻して、今度は竈近くにあった串を拝借した。
虹鱒四匹にそれを突き刺して塩を振り、うち二本火を入れておいた囲炉裏で焼く。
不機嫌だったモカはどこへやら、今は興味津々といった様子で囲炉裏を覗いている。
「そろそろ、いいかな。」
とりあえず焼いた二本を、モカと俺の二人で一本ずつ。
「おいしい!」
どうやら、モカは虹鱒の塩焼きが大層気に入ったようであった。
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