第二章「混ぜッかえる街の道場」

「訓練じゃー!!!!!!!」

「「「おーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」」」

 街の男どもが急に叫び始めた。そんな叫ばなくたって別にさ、稽古くらいできるでしょうに。

 ただ、どうもみんな一方向へ、流れを作っていて、俺はそのままその流れに流されて、結局道場みたいなところに付いてしまった。

 モカに問い合わせてみると、時々あることだそうで、なんとなく参加しておくことにした。

 道場はかなり広い。相当広い。たぶん、叫んだ男たち全員が稽古できるほど広い。

 が、バカなのか、どうもみんなバラバラになって稽古している。超非効率的だと思うんだが……。

「あのさ、全員で協力して稽古すりゃいいんじゃね?」

 ためしに助言してみる。これでこいつらが動くかどうかはさておき、これでは俺がろくに稽古できない。

「どうやるんだ?」

「いや、だからよ、2人ずつで組んで、場所決めてやりゃいいだろ。」

 さあ、これで動くだろうか。

「ああ、それなら効率的だな! よし、それでやろう!」

 案外簡単に動くもんであった。どうも、この街の人間は流されやすいのだろうか。さきほどの占い師の言葉にしたって、普通嘘だと疑うものなんじゃなかろうか。

 それとも、噂に聞く勇者とやらが、「嘘は絶対いけません!!!!」だとかなんとか言ったんだろうか。

 実にアホ臭いが、まあそれが国民性というものなのであらば仕方ないのだろうか。

「おいアンタ、組もうじゃねぇか。」

 と、唐突に話しかけてきた男がいた。大柄で、髭を生やした男だった。見た目ひょろひょろの俺を見て、簡単に勝てるだろうと踏んでやってきたんだろうが、なんだか悔しいので、ためしに本気でやってみようと思う。

「ああ、いいぜ。そういえば、竹刀ってどこにあるんだ?」

「竹刀? んなもんねぇよ。木刀でやれ木刀で。」

 はい勝った。わたくし竹刀よりも木刀のが得意なんですね。

 というわけで木刀を受け取り、と一振りしてから構える。

「先手必勝!」

 大男がそういって掛かってきたので、適当にあしらってみる。

 一つ思うのはこの男、異様に動きが遅い。木刀だってのに簡単に見切れる。要はクソ雑魚蛞蝓。

 右方向にあしらってから、腹に横からスッと。

「いってぇ!!!!!」

 あるぇぇ……? そんなに強くはやってないはずなんだが……。

 もしかして、この街の人たち、絶望的に弱い……?


 * * *


 なんだか中から悲鳴が聞こえるんだけど、大丈夫かな……。

 悠椰が訓練をしてくるというから、外のベンチで座って待っているけれど、少し中に興味がある。

 ずっと、悲鳴ばっかりが聞こえてくるし、なんだかよくわからないけれど、ちらーっと覗くくらい、いいよね。

 どうも、一箇所に人が集まっている。

 悠椰の姿は見えないから、たぶん真ん中にいるんだろう。

「痛ぇ!!!」

 また、誰かしらの悲鳴が聞こえる。

「す、すげぇ! 全員抜いちまったぞ!!」

 そんな声が聞こえた。どうやら、悠椰は相当強かったらしい。どうもピンとこないが、実際に倒したのなら疑う必要はなさそうだ。

 悲鳴の謎も解けたし、ベンチに戻ろう。


 * * *


 想像以上に弱かった。うん、簡単に全員抜けてしまった。どうも、この国がどうして繁栄しているのかイマイチ分からない。その、噂に聞く勇者とやらの力なのだろうか。

「最後はこの私だ!」

 なんだか態度も胸も大きい女が出てきた。その体格で剣を扱うのには向かないと思うんだが。

「悪いが今日は疲れた。明日で頼む。」

 こういう女は苦手だ。

「何? 女だからと侮りやがって!」

 こいつ、馬鹿かよ。疲れたっつってんだろ。

 こういう話をまったく聞かない女は苦手だ。いや女に限らず話を聞かない奴は大体苦手なんだが。

「覚悟ー!」

 は???????

 木刀が前から飛んでくる。飛んでくる……? えっ。

「知ってるか、それは投げるものじゃないんだぜ。」

 丁度いいので投げられて落ちた木刀を拾ってそのまま腹をように。

「イテッ。……ハッ! その程度か。まともに剣もあてられない奴が調子に乗るんじゃねぇ!」

 ああ、もうなんか面倒くさいなこいつ。

「そこまで言うなら、明日、本気で勝負をしようじゃねぇか。」

 とりあえず宣戦布告して、今日は疲れた。ウェバーで日本食が食べたい。話を聞かない系の女は大嫌いだ。昨日飲んでやらかしたけど、仕方ない。今日もアルコールにやられたい気分だ。

 外に出るとモカがと座っていた。

「あっ、お疲れさま。」

「ああ、ありがとう。」

 とても自然な流れでウェバーのほうへ歩き始めた。

 

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