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頭が痛い。周りを見ても誰もおらず、居酒屋のように見える。
そういえば、昨日居酒屋で酒を飲んだんだっけか。
あまり覚えていないが、そんなようなことだった気がする。12時間くらい寝てしまったのだろうか。いや、それにしても、寝すぎじゃないか……?
とりあえず、シュテファンを探したほうがいいだろう。あとは、モカも帰っているようなので、帰らねばなるまい……。
「おっ、起きたかい。」
奥のほうからシュテファンの声が聞こえてきた。
「お前、酒初めて飲んだな? 初めてであんなに飲んじゃっちゃあダメだよ、ダメ。」
どうやら俺は酒には弱いらしい。なんとなく残念ではあるが、そういう体質なのであれば致し方ないだろう。
第一、日本だったらまだ酒は飲めないのだから、こうなっても仕方、ないのだろうか……?
でも、友人が
「酒のんでやったぜーヘヘ」
みたいなことを言っていたような気もするし、結局、俺が酒に弱いだけなのかそれとも飲みすぎただけなのか……。
なんだか、思い出してみると、結構な量飲んだような気もする。というか、支払いはどうしたのだっけか。
そういば、俺、金持ってたっけ?
…………。
懐を探ると、何故か俺が生前(?)使っていた財布が出てきた。
中を探ってみると、綺麗に2000円ほど減っていた。
どうやら、この世界は日本語というだけでなく日本円も使えるらしい。
どう考えてもただの紙切れだと思うのだが、どうやら、この国でもあの紙切れにはそれ相応の価値があるらしい。
どうも不思議な世界ではあるが、こんなことを考えても仕方が無い。とりあえず、モカの家に帰らねばなるまい。
「シュテファン!
一言声をかけてから居酒屋、なんだっけ。居酒屋を出る。
扉を開けて後ろを見るも、暖簾は掛かっていなかった。
まあ、店の名前がどうであれ、今後もこの居酒屋に通うことにしよう。和食も食べれるし、酒も結構安く飲めるらしいからな。
街は昨日の昼とさしたる差もなく、時々魔物が混ざっていたりもしながら、如何にも平和な街、という雰囲気をかもし出している。
どうやら今日は平日らしく、この時間になると結構働いている人も多い。こんな昼間からぬけぬけと大通りを歩いているのは俺くらいだろう。
まあでも、帰り道をコレしかしらないのだから致し方あるまい。無理に細い道を通って迷うよりはよっぽどマシというものだろう。
大きな町を抜けて、林の中に足を踏み入れる。正直ここをとおったかどうかなんて覚えていない。が、よくわからないので、入ってみることにした。
進んでいくと林というより森という感じが出てきた。木と木同士の間隔は狭まり、生い茂った葉によって森の中は薄暗くなっていた。
もっと進むと、少し開けた、不思議なところへ出た。
小さな洋風の家がぽつんと佇み、煙突からは少し煙が立っている。
「あなたはだあれ?」
後ろから女の子っぽい声が聞こえる。
「俺は、那月悠椰だ。」
振り返りながらそういう。振り返った先にいたのは、背中に羽が生えた小さな――といってもモカと同じくらいだが――女の子だった。
かなーり薄いドレスに身を包み、髪は金髪で腰まで伸びている。
「那月くん、日本からきたの?」
異世界から来たかと問われたことはあるが、さすがに地球という単語が出るとは……。
でも、妖精に嘘をついて仕返しでもされたらたまったもんじゃない。正直に答えよう。
「ああ、俺は日本から来たが、なんでわかったんだ?」
「勇者と同じ雰囲気がする。」
おいまて誰だ勇者って。マジか、この世界、勇者とか居るのかよ。ヤバいな。
しかし、この妖精、めっちゃ薄着だ。もう少し近寄れば顔を見るだけで目の端にいけないものが飛び込んできそうである。
「お茶をご馳走する。入って。」
そういいながら妖精は小さな家に入っていった。
あ、小さな家と言っても、小屋程度のサイズというだけで、別に小さい子向けのお菓子の家~みたいなサイズではない。ちゃんと、俺でも普通に立ち上がれる。
妖精の後ろについて家に入ると、中は外以上に広かった。魔法かなんかで空間でも捻じ曲げているのだろうか。
リビングと思われる部屋に通され、テーブルにつけられた四つの椅子の一つに座った。
「ちょっと着替えてくるから待ってて。」
妖精はそういって奥へ引っ込んでいった。
部屋はかなりかわいらしいものが揃えられており、なんか、すごい。小学生並みの感想になるが、なんかすごいのである。他にたとえようがない。
「お待たせ。」
何故だ。なんでそうなるんだ。どういう思考だよ。
「どう? 興奮する?」
頭が沸いていると思う。思考が……。
なんで俺は、妖精の裸を見ているんだ…………。
興奮するかしないかといわれればまあするっちゃするが、それよりもわけがわからなすぎて何もいえない。
どういう状況だよ。
とりあえず、この妖精がドが付く変態だということは分かった。
冷静に見てみると、案外凹凸は少なく、まあ無くはない程度のふくらみといったところか……。
もう考えたら負けな気がする。あきらめよう。
「私はリラ。見てのとおり妖精。」
性格が完全にケダモノだ。飢えたような目で俺を見るのはやめろ。
そしてリラの視線は徐々に下に移って……
「おい! お茶をご馳走してくれるんじゃなかったのか!」
口を挟むほかあるまい……。
「ああ、そうだっけ。」
リラはつまらなそうにそういうと、どこかへ行ってしまった。
暫くすると、おまたせといってせっかく出て行ったのに裸のままお盆にカップを乗せて戻ってきた。
「ああ、ありがとう。」
いただいたものは飲むのが礼儀ってね。
どうやら紅茶らしい。林檎の風味が広がる、かといって甘すぎるわけでもなく、とてもおいしい。
「どうも、ご馳走様。」
そうお礼を言って小屋を出ようとすると、相変わらずリラは隠すでもなく寄ってきて、
「暇だったらまた来てね。」
笑顔で手を振っている。
俺も手を振り帰してからモカの家に…………
「なあ、柳澤モカって奴の家分かるか……?」
完全に迷った。そもそも、街にも帰れない。
「ああ、分かる。あっちにずっと歩いていけば近くに出る。」
どうやら知っていたようである。よかった、これで帰れる。
「おお、ありがとう。じゃあな。」
なんだか結局リラと仲良くなってしまったが、別に何も無かった。やましいことは何一つ無かった。胸を張って森の妖精とお茶会をしていたと言えるからな。
なんて一人で言い訳しながら森を歩くと、漸くモカの家が見えてきた。
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