なんだかとっても冷たい目が俺に向けられている。冷凍食品なんてこの世界にはなじみのなさそうな言葉を叫んだのだから、当然といえば当然ではあるのだが。

「おい、悠椰、ちょっとこっちへこい……。」

 黙ってシュテファンについていくと、そこには冷蔵庫が置かれていた。

 そう、時代の先端、冷蔵庫である。

「なんで冷凍食品だと分かった? さてはお前、この世界の人間じゃあねぇな?」

「いいや、俺はこの世界の人間だが、ちょっとそっちのほうには詳しくてな。」

なんとなく白を切ってそれっぽい理由を付け足しておく。実際、こっちの世界の住人だし、間違ったことは言っていない。

 とにかく、この世界で俺は転生してきたことに関しては完全に白を切ることにする。どうせ、言っても信じてもらえないだろうし。

 というか、なんでシュテファンは冷凍食品という単語ですぐに異世界だと思ったのだろうか。まさか、シュテファンもこの世界の人間じゃないとか……?

 いや、そんなわけないか。

「まあなんでもいいや。やっぱ、コロッケ蕎麦はべちゃーっとしてるのがいいだろ?」

どんなこだわりだどんな。が、しかし、

「ああ、それには同意だ。絶対、コロッケ蕎麦はべちゃーってしてるほうがいい。それどころか、なんなら天ぷら蕎麦も朝詰めにされた後にはべちゃーってしてるほうがいい……。」

 毎朝ピリピリとした満員電車に詰め込まれ、東京の中心あたりに入ってドアが開けば、立ち食い蕎麦屋のよくわからんのいい匂いが漂ってくる。

 こういうときに食べるのは、やっぱりサクっという天ぷらではなく、既にべちゃーっとした天ぷらを麺と一緒にというのがいいのだ。

「お前とは気が合いそうだぜ。」

 シュテファン、俺もそう思うよ。


 先ほどのカウンターに戻ると、モカがと小さくなって席に腰掛けていた。

 念のために言っておくが、俺は某落語家ではない。あの落語家は好きだが、その落語家ではない。巻き舌もできないから、コロッケ蕎麦をあの言い方もできない。

 それはさておき、そういえば、モカはまだ天ぷら蕎麦をもらっていないのだったな。

 俺のコロッケ蕎麦も完全にっとしているし、もう一度作ってもらうか……?

「そういや天ぷら蕎麦のこと、すっかり忘れてたなぁ、コロッケ蕎麦もこんなだからもう一回作ってやる。」

 よしいいぞシュテファン、マジ有能だな、お前。

 そして暫く、出てきた天ぷら蕎麦は、まさに例のアレである。べちゃーっとした天ぷら、完璧じゃないか。

「わぁ! おいしそう!」

 まだ純粋らしいモカは屈託の無い笑顔で蕎麦をすすっている。めっちゃかわいい。

「そういえばお前ら、年齢はいくつなんだ?」

 さっきから俺たちばっかりにかまっているが、他の客はいいのだろうか。まあ、いいのか。

「俺は16だな。」

「ふむほう。」

「私は15だからまだダメですね。」

まだダメ、とはおそらくお酒のことだろう。

「んじゃあ、モカちゃんはなんかソフトドリンクだな。悠椰は日本酒でいいか?」

「はっ??」

思わず間抜けな声を出してしまった。

「いやだって16だろ、酒もう飲めるじゃねぇか。」

マジかよ、ここって飲酒16からOKなのかよ。

「ああ、じゃあ、日本酒で。」

 いけない気がする、非常にいけないことをしている気がする。

 でも、この世界だか国だかは16歳から飲酒がOKなのだから別に気にする必要はない。そうだ、飲んでしまおう。そうだ、飲もう。

「うーんと、私はそうだなぁ……」

 なんだか、すごい考えている。

「じゃあ、オレンジジュースで。」

 案外普通のものをモカは頼んだ。しかし、蕎麦にオレンジジュースってのはどうなんだろう……。

 と、硝子製のコップに注がれた、冷酒というのだろうか、それが置かれていた。

 口をつけると、なんともいえない、少し辛い。思ったよりもスッキリしていて、飲み易いといえば飲み易いだろうか。


 なんだか暫く飲んでいるうちに、眠くなってきた。意識が朦朧とする。となりに居るモカが普段よりもかわいく見える。ほっぺたをぷにーっとしてみた。

 ああ、うへ。

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