第一章「異世界のキホンのキ。」

「えっと、私、柳澤やなぎさわモカです。」

女の子はそう名乗った。名乗ったからには、モカと呼ばねばなるまい。

「俺は那月なつき悠椰ゆうやだ。よろしく。」

「よ、よろしく。」

 なんとなくたどたどになりながらもモカはそれっぽく言えた。

 なんとも、ほめてあげたくなる。

「それで、ここはどこなんだ?」

 これは俺の最初っからの疑問である。本当に異世界なのか。

「ここは、リスレイヤ王国の首都から少し離れた森の中。」

「ここは、リスレイヤ王国の首都から少し離れた森の中。」

 思わず復唱してしまった。なんだ、全く聞いたことの無い国だぞ。

 ていうか、この家でそれはなんか、ヤバくないか……。どうみたって日本家屋ってやつだろ……。文化遺産とか言って保護されてたりする奴だろ……。

「ていうか、なんで俺は裸だったんだ?」

異世界は確定したので、その次の疑問をぶつけてみる。

「川に釣りに行ったら、なんか、流れてきたんです。とりあえず、背負って身体を拭いて、それで布団で寝かせておきました。」

「あ、ありがとう。」

っておいまて、流れてきた……?

「流れてきたってお前、桃太郎じゃねぇんだから……。」

なんて思ったのだが、桃太郎って通じるのだろうか。

「あー、桃がどんぶらこーってくるやつ!」

 通じたよ……。ここ、日本なんじゃないか。モカが俺をからかってるだけなんじゃないのか。

 でも、モカの感じを見るに、どうやら嘘をついているようでもないらしい。


 モカは、俺よりもだいぶ小さい。俺が172センチだから、モカは150に乗るか乗らないかくらいだろうか。たぶん、ちょっとした段差に乗っても俺のほうが高いんだろう。

 髪の毛は肩よりも少し下くらいまで伸びている。夏だし、紐などで括ればいいのだろうが、どうやら括らないらしい。


「そうだ! 少し遅いけど、朝ごはんにしよう!」

 モカはそう言って土間の台所的なところで料理を始めた。

 縁側に座って草原を眺めていると、遠くになにやらうごめく影が。カエルのように見えるが、明らかに大きい。いやでも、異世界だし、モンスターとかいても何の問題もないのか。

 と、その隣にはこれまた大きなトカゲのような生き物。やっぱり、モンスターだろうか。

 暫くするとモカに呼ばれ、火もくべられていないのに囲炉裏の周りに座らされ、朝食……?

 あれ、俺の知ってる和食とちがうんだが。

 いや、そうじゃない。絶対違う。だって、俺の知ってる日本の朝食ってアレだよ、白い米に焼き鮭とか、そういうのだよ。

 今俺の目の前に用意されたのは――


――パン、マーガリンが塗られているらしい。ちょっと表面がテカっている。そして、サラダ。シーザーサラダとかいう奴だ。ベーコン、おいしいよな。


 これは、和洋折衷とは言わねぇ……。

 いや、現代ならば当たり前の光景なんだが、なんだ、なんでこのどうやら萱で葺いたらしい古めかしい家でこれが出て来るんだよ。絶対おかしいだろ……。

「あの、パンか野菜、お嫌いでしたか……?」

いや、決してそういうわけではないのだが。そういうわけじゃないのだが、なんか、ね。

「いや、ありがとう。おいしくいただくよ。」

 まさか、こんな江戸時代みたいな家に来て最初に口にするものがパンだとは思わなかった。

 悔しいが、マーガリンが現代のものの数倍美味い。なんでだよ。

 本当にここは異世界なのか……? やっぱり、文化財とかで行われてる盛大なドッキリとかじゃないのか……? 行政の陰謀とか、そういうのじゃないのか……?

 いや、行政の陰謀は絶対違うな。


 食事を食べ終え、今度は街のほうを案内してもらうことにした。

 が、思っていたより道が辛い。日本のバリバリ現代人な俺には少々厳しい運動だ。

 まあ、幸い街まではそれほど長くはないらしいし、なんとかなるだろう。


 街に着いた。俺が結構苦労して歩いた道をスイスイと進んでいたモカは全く疲れた様子がない。これでも運動部に所属してたのだが、それでも運動不足は運動不足なのだろうか。

 まあ、なんでもいいが、早く休憩をした。休ませてくれ。

 上を見上げると、太陽が真上にあった。どうやらお昼時らしい。ところどころにある飲食店には長蛇の列が出来上がっている。

 あまり飲食店が多くないのだろう。

 ただ、やはり目につくのは見た目が和風な洋食店。和食を食わせてくれ、和食を。

 少し屋敷が増えてきた。街と言ってもやはり国の首都なわけで、政治に関与する人間の屋敷というものは城の近くに沢山あるらしい。

 それに混ざって

『道場』

と盛大に看板が掲げられた建物や、こぢんまりとした兵小屋も混ざっていた。

 と、そんな中に異様な雰囲気の建物が一軒。完全に、洋風の建物である。

「モカ、あの建物なんだ?」

「ああ、あれは魔法使いさんの家だよ。魔法使いさんの家は他の家とは違ってああいうデザインにするのがそれっぽいんだって。」

 それっぽいってなんやねん、それっぽいって。

 と、なんだろう。が歩いてきた。

 それは紛れも無く――

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