七種の賜物

ペリヱ

書き出してみた。

 韮沢治人にらさわはるとにとってのヒーローは、みどりのおやゆびを持った、死の商人の息子だった。

 兵器も持たず変身もせず、見得も必殺技の一つもなく、不思議な力を持ち、敵味方なく決して死なせず、いつも花を咲かせている。

 そんな少年が一見メルヒェンな、その実ひどく暴力的な方法で物理的に戦争を排除する。その美しさと恐ろしさとに心が惹かれた。読むたびに、心が震えた。

 もとより勧善懲悪を標榜したり、痛快なアクションを売りにしたりするような、そういう分かりやすい類のヒーローではないうえに、どこぞの王子のような記号としての絵姿も持ってはいなかったから、コラボレーションの相手に選ばれることも、メディアミックスされることもなく、ただ己の心の内だけで密やかに、ごっこ遊びに興じるくらいが精々だった。


 例えば種を蒔いたばかりの畝に手のひらを宛がって、芽生える様を夢想するとか、はたまた芽生えたばかりの双葉に親指を押し当てて、伸びゆく様を夢想するとか。


 そう――今みたいに。

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七種の賜物 ペリヱ @perriwer

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