総統談話 『アヘは次元の壁を越えるか?』

 


 全国の親愛なるアヘリスト諸君。 総統である。 



 さて今回のテーゼに対して総統としての私の立場と考えを述べるとしよう。


 結論から先に言えばアヘは次元の壁を越えることは出来ない。


 その説明をする前に、諸君に問おうとしよう。


 アヘとは何であろうか? おそらくこの答えは各人によって変わることであろう。


 それは正しいことだ。 前にも申したが、私は自由闊達な議論を好む。 アヘとは全ての人々にとって等しく平等に愛されるべきであるという考えはいまだ、見開き2ページでアヘ語出叫んじゃう女の子くらい変わらないのだ。


 さて私は先程、見開き2ページという言葉を使った。

 

 それこそがこの問題の真理なのだ。


 つまりアヘは二次元の中でこそ輝くものだ。


 いや輝くというのは少し違うな。 アヘという至高の性癖は二次元、つまり絵でしか表現し得ないというのが私の結論である。


 いや待て待て三次元でだって見たいじゃないかと言うアヘリスト達が居るということは勿論理解している。


 おそらく彼らはこう言うだろう。


 アヘが最高と言うのなら二次元だけでなく三次元でもそうであるはずだと。


 その考えは美しい。 まさに穢れを知らぬ乙女のような、あるいは信じて彼女を送り出した彼氏のように。


 だがその考えは無知であるからこそ可愛らしい子供の夢と言わざるを得ない。


 かつて私もそう考えていた時期が有りました。


 だが理想は夢でしかなく、現実と向き合わなければならないのだ。


 どんなに目を逸らそうと画面の中の彼女はアヘ顔晒して僕じゃない誰かのモノでアヘっていることを見なければならないと同じように。


 一つ、昔話をするとしよう。


 アヘの三次元確立という途方の無い夢、いや夢想を抱いていた若者の話だ。


 若者は夢を持っていた。 アヘを実写で見てみたいという夢だ。


 若者はその若さゆえの瑞々しい肉体と情熱によって行動力はあったのであちらこちらを旅しては探し続けていた。


 ふふ、かつてのアヘリスト達…いや若人ならば覚えがあるのではないだろうか?


 例えばうるさい事を言わずにエロ本を売ってくれる本屋、あるいは私服ならAVを貸し出してくれるビデオ屋。


 ときには手痛いガゼネタを引っ掛けられて顔を赤くすることもあったけれどね。


 仲間達とその情報を互いに交換してはそれが例え遠かろうと勇んで向かった蛮勇ともいえる愚かさを。


 その時分には私もアヘリストとしてのタマゴ、いや種に等しかった。 


 つまり精子だ。 


 パパの出した精子がシーツにこびりついてママの割れ目に入り込んでしまった幸運とは違う。


 銃弾で、銃剣で、あるいは迫撃砲で誰にも知られることなく死んでいく哀れな兵士のようにディッシュの牢獄に包まれて捨てられていくような存在だった。


 当然だろう? あの頃にはアヘリズムなどという思想は芽吹く前、偉大なる先人たちがアヘの種を畑に巻いたくらいの時代なのだから。


 畑とは何だろうか?


 つまりは君たちだ。 私と君、そしてアヘリスト達の成長していく性癖という畑に芽吹く前、まだそれがアヘという大輪の華を咲かす前の常識という土に隠されていた。


 …話が長くなってしまったな。 語りを進めるとしよう。

  

 その時分、つまりアヘの種が巻かれた畑、その中でも私は少しだけ他のアヘリスト達よりかは少し早くそれが芽をだしはじめていた。


 私は探した。 探し続けた。 それは孤独な旅路でもあった。


 何しろ周りは月間ジャンプのマンガでおっぱいが出ただけでドキドキしていたような連中だ。 


 もちろんおっぱいは好きだよ。 だがそれだけでは私の中に目覚めたそれは万足することはなかった。


 さりとて、アヘ(当時はまだ私もその言葉を理解していなかったが)などというものを愛する同志などもいなかったのだ。


 孤独は人を蝕む。 


 考えて見て欲しい。


 確かにあるのだと信じてはいても徒労を重ね続けていける人間がどれほど居るだろうか?


 毎週、毎週、信じて送り出した彼女がアヘ顔ビデオレターを送られ続けてそれでも絶望しない男が居るだろうか?


 私とてその一人だ。 いずれ彼女が送ってくるアヘ顔ビデオレターを再生しなくなっていくのは確実じゃないか。


 ちなみに『いや、俺は何度でも見続けるぞ』と言う者がいるだろうが、君はただのネトラレマニアだ。


 それもまた最高であるが、私は残念ながらネトラレアヘ顔マスターではないのだよ。


 悲しいことだが小指で結びついた同志よ、君はこれからも瞳と一緒に股間から体液を流し続けてくれ。


 さてそんな毎日に絶望を感じていた時にそれを見つけた。


 その時のことをなんと評していいのだろうか?


 例えるなら砂漠で見つけた一杯の水?

 

 いや、僕の嫁が画面から出てきて僕と相思相愛になってしまいましたよ!


 いやいや、やはり上手く言葉に表すことが出来ない。


 それくらいの衝撃だったのだよ、当時の私としては…ね。


 その日はとても暑くて…ああ、そうだとても暑かった日だった。


 猛暑日の中、全身から体液を噴き出して、息すら億劫になるほどに着かれきっていた私は最近新しく出来たビデオ屋を捜索していた。

 

 だが期待はしていなかった。 もう期待して裏切られるのは沢山だったからだ。


 ここだってどうせまた…。 そんな気持ちだった。


 だが何気なく目をやったパッケージの題名を見たときに思わず二度見してしまった。


 『気持ちよすぎて白目向いちゃう女の子総集編』


 ……。 すまない。 この話をすることはやはり苦しい。 


 語りたくないものだな若さゆえの過ちというのは。


 だが私にそれは許されない。 私はアヘリスト。 そしてその第一人者と自負しているのだ。


 逃げることは許されないのだ! 


 もうしわけない。 覚悟はすんだよ。


 値段は八千円。 まあ安くはない。 むしろ当時の私にとってはとても高価な代物だった。


 だがそれが何だというのか? 私はそれを探していたのだ。


 確かにアヘと白目って何か違くない?というような気もするだろうが、時代背景を考えればそう表現せざるを得なかったのだと私はそう考えた。


 いやそう信じざるを得なかったのだ。


 幸いなことに金は足りた。 いま思えば足りてしまったのだ。


 いま考えるともしかしたら、それは幸運だったのかもしれない。


 でなければあるいは私はいまもまた有りもしない幻をいつまでも追いかけ続けていたのかもしれないのだから。



 ビデオは問題なく購入できた。 そしてそのまま真っ直ぐ家へと向かった。


 汗が髪を濡らし、シャツがベッタリと肌に張り付く。 そんな感覚ですら私には嬉しかった。


 だが自室に戻りビデオデッキにそれを挿入し、始まったときに全ては反転した。


「な、なんだよ…これ…」

  

 何度、この言葉を発しただろうか? 数えたくも無い。 だがときに強烈な思い出はいつまでも心から離れてくれないのだ。


 その内容はひどかった。 とにかくひどかった。 ただそれだけだ。


 白目を向くといっても明らかに自分からやってるし、それも全然出来てない。


 一番ひどいところは何かする前からすでに白目むいてるじゃねえか! おいおいなんですか、貴女は期待でヌレヌレじゃなくて眼球グルングルンしちゃうんですか?

 終いには明らかにスタッフが指示してるじゃねえか!

 っていうか白目向くならもっと目の大きい女を呼べ、切れ長通り越してただの一だよ一!

 『一』番気持ちよかったからよがっちゃったってか!


  

 ……やめておこう。 ネガティブな体験でもそれを糧にするからこそ人は進むことが出来る。


 それはもちろんアヘリストであっても…だ。


 それ以来、私は三次元でのアヘを探すことは止めた。


 それによく考えてみれば無理じゃない? だいたいそんなに体験できるほどモテないし、っていうか技術だって無いし、それに俺……早いからさ。


 『世にマン変の華咲けれども降るのは潮ばかりなり』 

  

 それが真理だ。 三次元のアヘには人類には早すぎるということなのだ。


 もちろんアヘは最高だ。 至高だ。 そしてアヘリストして新たなるアヘの道を切り開いていくことに何の怯えも無い。

 

 だが無いものは見つけることは出来ないのだ。 


 それが私がまだバリバリのDボーイだった頃に自らの体験で見つけた真理なのだ。


 だがこれはあくまで私の結論だ。 そう、ただ一人のアヘリストとしての。


 時代は進む。 人類は進化する。 不可能だと思ったことが可能になった事例は腐るほどある。


 私がたどりつけなかった。 あるいは諦めてしまっていた道を誰かが見つけるかもしれない。


 それゆえにこの蛮勇。 つまりアヘは二次元を越えられるというこの題名を否定する存在が出てくることを私は密かに期待している。


 どうか我が同志。 才気溢れるアヘリスト達よ。 私を老醜と笑って踏みにじって欲しいのだ。


 さて、結論としてアヘは二次元を越えられないと言った私であったが、ここまで書いたところで、どうやらまだそれを諦めていないようだ。


 ふむ、もう一つ真理があったようじゃないか。

 

 つまりアヘリストというものはどうしようもなくロマンチストらしい。


 …呼んだ君は笑うかね?


 それもまた良しだ。 いつだって笑われる道化が人々を動かすものだ。


 そうなることさえ私は望むのだから。

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