第3話


 どれくらいの時間が経っただろうか。妙な女がわたしに話しかけて来た。

「おまえ、すさまじい怨念を孕んでいるねえ。よっぽど憎い相手がいるんだね」

「あなた、誰?」

「アタシかい? アタシは海の魔女さ。アンタは?」

「わたしの名前? ……さあ、わからないわ」

 なんだかおかしくなってしまった。問われて初めて自分に名前がないってことに気がつくだなんて。

「おや、そこに書いてあるのは違うのかい?」

「……なんて書いてあるの?」

「関の……ダメだねこりゃ。錆びついちまって読めない」

「名前なんてどうでもいいわ。わたしはただ、彼がわたしを握ってくれて、あの綺麗な目でわたしを見つめてくれたら、それだけでよかった……それなのに……」

「わかるよ。アンタ、その男に愛されたかっただろ。でも裏切られちまった。なら、復讐するしかないね」

「復、讐?」

「そうさ。復讐してやればいい。アンタが味わった苦しみを、そいつにも味わわせてやるのさ」

「でも、いったいどうやって――」

「アタシが魔法で、アンタを人間にしてやるよ」

「そんなことができるの?」

「できるとも。なにせアタシは魔女だからね。どうする?」

 問われるまでもないわ。わたしの心は決まっていた。

 ホントに復讐したいのかはよくわからないけど、ひとつだけハッキリしてることがある。わたしは彼にもう一度会いたい。汗ばんだ手のひらでわたしの手を握りしめて、あの綺麗な目でわたしを見つめてほしい。

「お願い。わたしを人間にして」

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