あたたかい胸のなかで

 お母さんと晩ごはんの支度をした。

 調理道具を取ってあげたり、冷蔵庫小から材料を取り出したり、野菜をお水で洗ったり、お米研ぎも手伝った。

 水遊びが大好きなボクには打ってつけのお手伝いだった。

 お母さんがたくさん喜んでくれたのが嬉しかった。


 お母さんが作ったご飯はとてもおいしかった。

 料理の名前はわからないけれど、野菜もお肉もみんな美味しかった。

 デザートは苺のショートケーキをふたりで半分こして食べた。とても甘くて美味しかった。


 お母さんと一緒にお風呂に入った。

 彼女はボクの背中に生えているちいさな翼を見て、ようやくボクが言ったことを100パーセント信じることができた、と言っていた。

 彼女がその羽を労るように洗ってくれたので、かわりにボクは髪を洗ってあげた。ふたりで狭い湯船の中で、たくさんおしゃべりをした。


 ボクは生まれたときからひとりぼっちで、今まで親という存在を知らずに生きてきた。

 ボクは幸せだ。

 お母さんはどう思っているのだろうか。


 お部屋を暗くして、お母さんと一緒に布団の中に入った。


「ねえ、ピーちゃんは明日なにがしたい?」


「ボクは居候の身なので決定権はお母さんにあります! お母さんが鳥を食べたいとおっしゃるのなら、ボクはすすんで焼き鳥になる所存です」


「居候じゃないわ、一日限りだけど、私たちはもう家族なんだから」


 お母さんの香りがした。


「家族、ですか。とてもいい響きです。わかりました、お母さんがそこまでおっしゃるのなら、ボクはお外に行きたいです」


「じゃあ、お弁当作って公園に行きましょう」


「ほ、本当ですか! ボクはきっとこの日のために生まれてきたのだと思います。これ以上言うとバチが当たるかもしれませんが、お弁当にはぜひ梅干を入れてください! あと玉子焼きは甘いほうが好です! あ……やっぱりダメです! お外にはカー太がいます!」


「カー太って、さっき言ってたカラスのこと?」


「はい、カー太は神様に雇われたずる賢い暗殺者なのです。きっとボクがお外に出るのを待ち構えて、鳥刺しにして神様のお膳にお出しする腹積もりなのです! あ、今気づいてしまいました。代償というのはまさかこのことだったのでは……」


「代償?」


「な、なんでありません! ボクは無意識に独り言をしゃべりだすという度し難い癖があります。なので聞き流してください」


 お母さんが笑い、


「そう。でも安心して、カー太が襲ってきても私がやっつけてあげるから」


「ふぐー、分かりました。危険な賭けですが、もし万が一刺し違えることがあってもお母さんのことはボクが守りますので安心してください! こう見えてもボクは小鳥拳の使い手で、小鳥界のなかでは右に出る者はいないとまで言われた――」


 そしてボクは、大好きなお母さんのあたたかい胸のなかで、深い眠りについた。

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