第四話 召喚状の重さ
召 喚 状・・・
すっかり忘れていた・・国からの召喚状の件、
もう今からでは流石に日暮れまでにたどり着くのは無理だろう。
「召喚状・・ああ、あれか」
「これは成人した能力者たちに魔力の講義を受けるための召喚状だ。期間は確か2週間ほどだったかな」
アシュベルがその封書を見ながら何か考え込んでいる。
「でも、急ぎの時に君は能力者とはいえ、何故見ず知らずの人のために助けに入ったの?」
切羽詰まった状況の中、危険に身を投じるなんて。
あの人数ではこの子の剣の腕でも、時間がかかるだろうし無傷ではいられなかっただろう。
それどころかへたをすると命に関ったかもしれない。
そんなアシュベルの疑惑にエレナはさらりと答えた
「困った人を助けるのに理由がいるの?」
エレナは小首をかしげながらこちらに瞳を向ける。
その偽りのない瞳にアシュベルはすぐに返事を返せなかった。
そして自身の中の何かが告げるのを感じた。
引っかかるどころじゃない・・この子はやはり。
「そうだね、エレナ君の言うとおりだ。」
そして手がふと彼女の頭に・・・。あ、まずい。幸いエレナには悟られなかった。
何故か頭をなでたい衝動にかられている、何の衝動だ?
「エレナ、君さ無謀だって言われたことない?」
エレナの返事は即答だった。
「言われたこともないし思ったこともないけど?」
なるほど・・ね、無自覚ってやつか。笑いたい衝動を堪えながら言葉を続ける。
「この召喚状だけどね大丈夫だよ。君を縛る効力はない。」
アシュベルは召喚状を人差し指でピンと弾いて言った。
「それどころか無視してもいいレベルだね。君はわかっていないようだけど、俺が炎の使い手として生まれてきたように闇の使い手の君は、天からの授かりしもの。つまりはこの国の宝。よっぽどのことがない限り何のお咎めはないんだ」
城に勤める近衛隊長が言うのだから間違いないだろう。
「そうなんですね、よかった。でも・・」
「ここまで私一人で来たわけではないんです。故郷のおじ様が無理して送ってくださったの。寄り道をした私が言うのもなんだけど、今日中に着きたかった・・・。」
苦笑しながらエレナは言葉をつづけた。
そして間を開け、少し言いにくそうに。
「それにアシュベル、あなたならわかるでしょう」
エレナは胸に両手をあてた。
「わたしのマナの・・・小さいことを。だから何か学べる事があるなら学びたい。噂では城の図書も見せていただけるとか。」
複雑な表情だが目に曇りはない。
能力者には体の中にマナが存在する。それがあるからこそ能力が発動できるのだ。
マナの大きさ。
これが生まれながらの個人差であり、努力などでは埋めきれない能力の大きさ。
これは体の大きさで決まる。
大きな体を持ったものにはその体に見合った大きなマナが体に存在する。
小さな体には大きなマナは入らない。
故に天から授かった能力とはいえ、個人に能力差が現れるのだ。
エレナの身長は146㎝。16歳にしては小さい。
その分マナが他の能力者より小さいのだ。
「能力の差は仕方ないけど、魔力をもっと理解して戦闘に応用できれば・・」
確かにエレナのマナは小さい。
でも、やはり違和感がぬぐえない。
マナか・・・何か見逃しているような。
しかし今は。
「エレナ、間に合うよ、俺の馬に乗って行けばいい。」
アシュベルは何かメモを書いてエレナに渡した。
「これを門の兵士に渡せば案内してくれるから。」
「ちょ・・隊長、隊長の馬は最速ではありますが、あれはエレナ殿には・・」
慌てた様子でアシュベルの部下が口を挟んできた。が。
時すでに遅しとはこのこと。同時にピーッと指笛を鳴らしていた。
そして素早く近づいてくる蹄の音。
ザッとひときわ大きな馬が飛び出してきた。
盗賊と戦闘中に現れた時には見ている余裕がなかったが、
アシュベルの馬は、見るからに雄々しい軍馬だった。
「エレナ殿、離れて!隊長の馬は極めて気性が荒いのです!お怪我をなさいます!」
「しまった・・皆近づかないからすっかり忘れていた!」
アシュベルが手綱を取ろうとした時。
「この子の名前は?」
エレナが一歩踏み出す。
それを見て馬は2,3歩後ずさりをする。
「セル・・だけど」
「あぶな・・!」
馬は後ろ足で立ち上がり前足を振り下ろす。
土を蹴り、エレナを確実に警戒している。
いつも以上に興奮している・・?この行動はなんだ、いつもの威嚇ではない。
「セル!」
エレナの声が響いた。
セルがピクリと動きを止めた。
「大丈夫だよ、怖がらなくていい」
端然と微笑みながら、更にゆっくりとにエレナは近づいていく。
まだセルの鼻息は荒い。
それでも臆することなくエレナはセルの首筋に手をかける。
「お前の力が必要なのだ、わたしの頼みを聞いてくれないか」
「アシュベル、セルを貸してくれてありがとう!早速向かってみる。」
あの後セルはすっかり大人しくなりあっさりエレナを乗せてくれた。
見送りながらアシュベルは部下に言った。
「なんかさぁ、最後セルのやつ俺よりエレナに懐いてなかった・・?少しジェラシーを感じるんだけど。」
「いえいえいえ!そのようなことはっ」
慌てたように部下は答える。
「今更だけどエレナ馬乗れるんだね。」
村から出てきたと言ってた。大抵の村娘は練習する場もないし、馬車を使うので馬に乗れない。
「そう言われれば・・しかもあのセルを。不思議な方ですね。」
不思議か・・君は色々と想定外だよ。
どんな人生を送ってきたのか・・。
それにあのセルの最初のおびえ方・・威嚇こそすれ怯えるなど。
いや、そもそもあれは怯えていたのか。
俺は人一倍、いやひと十倍勘がいい。だからエレナのことが気になる。
でもセルが何かそれを瞬時に感じ取ったなら・・。
・・・動物のほうが目に見えない何かを人間よりも感じとる力を持っているはず。
放って置くわけにはいくまい。
さてと少し準備が必要だな。
まぁその点はこの地位を利用すれば簡単に済むことだ。
楽しくなってきたな。
アシュベルは自分が笑みをうかべていることに気づいた。
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