第三話 確認の手順は間違ってはならない
そうこうしているうちに盗賊どもはどんどん距離を広げていく。
「すいません、肩を貸してください」
アシュベルはエレナの前にいた。突然の申し出に、え・・と少し驚いたような顔をしたが振り返るその前に
既に彼女は動いていた。
・・・トン!
肩に彼女の足がかかる。軽い・・。初めて見るが闇魔法を使っているのか?
そこから飛躍的な速さで空を切り30m以上はある距離を一気に詰める。
手には漆黒に染まった剣を構えて。
途中空中でフードが外れ、彼女の腰まである銀の髪が陽光に反射し、銀のまつげの奥にある真っ黒な瞳は夜の海のように静かに煌めいていた。
____一瞬で奪われた。
銀の髪に黒い瞳・・・この国にしては珍しい。
あんな美しい女の子にはなかなかお目にかかれるものじゃない・・がそれよりも何か。
黒い瞳は闇使いの証。しかし彼女のマナではあそこまでの・・・。
アシュベルは何か引っかかるものを感じた。、以前から人の本質を見抜く自信はあった・・が。
だが、何が引っかかっているのかが分からなかった。
なんだ、これは・・?
その頃、盗賊どもはその速さにあっけにとられ気が付いた時には、女性にナイフをつき付けていた者や他の者たちはは地面に転がり、その周りの者も腕を切られ剣を手放していた。
エレナは黒に染まった剣を鞘に納めた。
「あり・・がとうござい・・ます」
泣きながら助けられた女性はお礼を言う。
よほど恐ろしかったのだろう、立ち上がるとこともできないようだ。
エレナはナイフが突きつけられていた辺りに傷がないのを確認し安堵した。
「無事でよかった」
この女性の縄をほどくとほかの女性たちのさるぐつわと縄を解いた。
腕が赤くなっている・・。改めて盗賊どもに怒りが湧き上がってくる。
アシュベルの仲間たちが盗賊どもをその分しばりあげていた。
「見事だねぇ、恐れ入ったよ」
拍手しながら相変わらずの笑顔でアシュベルは彼女に近づいて行った。
そうだ、あの時咄嗟にこの人の肩を足場にしてしまったんだった。
「あ・・肩いきなりすいませんでした。」
「いや、そこは全然かまわないのだけど、少し言い訳させてくれる?」
「・・はい」
女性を救出しなかった言い訳?だろうか。
「あそこ見える?」
彼の指さしたほうに目を向ける。
「?」
「あーもうちょい奥ね」
じっと目を凝らすと弓を持った、アシュベルと似たような服装の男がいる。
こちらが気づいたのが分かると、軽く手を振って見せてくれた。
「あの方は・・あ。」
「お、賢いねぇ、あいつは弓の名手で僕の知る限り失敗したことはないんだ」
ああ・・そういう事だったのか。
この人はちゃんと考えて行動していたのだ。
あの時、盗賊どもを油断させ弓士に攻撃させるチャンスをうかがっていた。
それを私が潰してしまった・・・。
「ちなみにやつらが逃げてく方向には俺の部下がいてね、いざとなったら挟み撃ちで・・とも思ってたんだけど」
ああ・・あの時疑ってしまった自分が情けない。もう穴があったら入りたい。
「・・・救出の邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした」
彼は、あっ、とエレナの傷心に気づき慌てて訂正した。
「違うんだ・・これは言い訳。俺が君に嫌われないようにね。君は凄いことを成し遂げたんだから」
ふふ・・うまい具合に心の傷をふさぐものだ。
この人、恐らく人を動かすのがうまいんだろうな。
あの強さなら一人で殲滅も可能だったに違いない。
「しかしよく頑張ったね、お嬢ちゃん。」
「・・・・・・・・・・」
ん・・?オジョウチャン?
彼女の中で不穏な空気が流れる。
前は闇の姫君って・・あ、もしかしてあれもそういう類の。
小さい子にお姫様~なんていう類の。
「強くたって一人で心細かったろうに、もう大丈夫だからねー。」
満面の笑みを浮かべて彼は言う。
そして上からアシュベルの大きな手が少女の頭に伸びてきた。
はぁ、やっぱり・・私の頭をなでる気か。
だめだ・・これだけは譲れない・・。
彼女は近衛隊長と言えど容赦なく即座に行動に出た。
アシュベルの手が頭に届く瞬間。
___パン!
エレナはアシュベルの手を容赦なく払いのけたのだ。
あっけにとられている彼の顔をみると、申し訳ない・・申し訳ないとそう思うけど・・。
彼女は彼を見上げ、その黒い瞳でまっすぐ見て思い切って言った。
「私、背は小さいし童顔ですが、成人しています!16歳です!」
※この世界の成人16歳からです。
「お嬢ちゃんなんかじゃありません。」
「ん・・・?」
笑顔のままアシュベルは固まっている。12~3歳くらいに思ってしまっていた。
まずい・・地雷をふんだか。そして改めてエレナを見つめてみる・・風にゆれる細く長い銀色の髪、艶やかな黒い瞳・・やはり近くで見ても抜きんでて美しい容姿をしていな。そして・・
この子、不思議なのが、よく見ると目がそこらの同年齢の子よりも断然落ち着いた表情を持っている。
まるでいくつもの修羅場をくぐってきたかのような・・。
先ほど感じた違和感はこれか?
そしてアシュベルの視線はさらに下のほうに。
あ。
うん、納得した。
「ちょっと!どこ見ているんです!?」
アシュベルの視線に気づいて両の腕で胸を隠し座り込んだ。
不覚にも戦闘の間に襟元が開いてしまっていた。
ここから見ても分かるほど顔が耳が真っ赤に染まっている。
地雷を踏んだ上にセクハラ・・これはまずいな。
「いや、君が成人しているって言うから、ほらちょっと‥何確認というか」
だめだ言い訳になってないうえに、これではまるで肯定してしまっている。
大体アシュベルは少し癖のある金色の髪に赤い瞳を持ち、その容姿端麗な姿と高度な炎の使い手として有名なうえに、貴族の出身なのだ。
毎年行われる武術大会でも18歳の頃から7年間優勝を誰にも譲ったことはない。
城でも城下でも彼を知らない女性はいないほどだ。一目会いたい、見るだけでも、と多くの女性が隙あらば
言い寄ってくる。そんな生活を送っていると自然と女性のあしらい方は身についていく。
それが今はどうだ。
何を動揺している。とにかくこちらが冷静に対応しなければ。
「エレナ」
座り込み顔を上げない・・やはり相当怒らせてしまったようだ。
「人の内面に踏み込むのは苦手だが・・」
「君の瞳をみたよ。何かを抱えているのか、または乗り越えてきたのかわからないけど、小さな女の子のそれではない・・そう思った。」
エレナは、はっと顔をあげた。
「エレナ、誤解してすまない。君は大人だ。」
目を見開いてしばらくアシュベルを見上げていたが、立ち上がり首を振った。
「大人・・ではないです。ただ子ども扱いは嫌なんです。」
よかった、機嫌を直してくれたようだ。
「じゃあ、君を口説いても何の問題もないねー」
にっこりアシュベルが微笑むが、わかりやすいくらいエレナが引いている。
新鮮な反応だけど結構傷つくな、がらにもなく苦笑する。
「さて冗談はおいといて」
「俺たちは最近のさばっていたあの盗賊のねぐらを情報屋から聞き出して出動してきたんだけど。」
「エレナ、君こんなところで何してたの?」
その問いに彼女はは瞳を上に上げて、空を見上げた。空がオレンジに染まっている・・夕日?
「あ。」
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