第二話 首を突っ込むときは自己責任

キイィィィ__ン

森の中で剣の交わる音が響き渡る。

背に、さらわれてきた女性たちを守りつつ、次から次へと切りかかって来る盗賊どもの相手をする。

誰かをかばいながらたちが戦うのは初めてだ。

一人の時と違い動ける範囲が制限され、さらに敵の攻撃も自分だけを狙ってくれればいいのだが

女性たちを取り戻さんと剣をやみくもに振り回してくる。

なるほど・・戦ってみなければわからないこともあるものだ。

いざとなればアレを使うか・・・。


少女は持ち前の身軽さで相手の懐に入り喉に肘鉄を食らわせる。

白目をむき、泡を吹きながら倒れる盗賊の横から、隙を狙って他の盗賊の剣が彼女の脇腹をかすめるが

素早く身をひるがえし男の肩へ手をかけると、肩越しに空を舞いその男の肘下にすっと剣で線を引く。

痛みがない・・?いぶかしげな顔で腕を見るとバッっと筋状に血が噴き出した。

「その腕ではもう剣は持てないよ」

男は転げまわって恐ろしい形相でこちらを睨みつける。


後方の男がいらいらした口調で声を荒げる。

「何をぐずぐずしているのだ!相手は子供じゃないか!」

「今すぐ全員で切りかかれ!」


彼女の後ろで女性たちの泣き声がひと際大きくなった。

少女は振り返り、そっと微笑みを浮かべた。とはいってもフード越しなので小さな唇しか見えなかったが・・。

さっきまで声を漏らして泣いていた女性たちはその姿に一瞬見入った。

なんだろう・・雰囲気が変わったような・・?

「アレを使うしかなさそうか」



「・・・闇よ」


少女は持っている細い剣を天へ掲げる。


「闇よ・・剣に宿りてわが力となれ」


その言葉が放たれるやいなや、少女の体から龍のごとき黒いうねりが、掲げられた剣へ立ち昇っていく。

瞬間それは、吸収されるように剣へと収まった。

誰もが目を見張る。剣は鞘、つか、刀身に至るまで闇のように真っ黒に染まっていた。

「闇・・の剣だと・・」

盗賊どものごくり、と唾を飲み込む音が聞こえる。

「殺生はしたくない。、彼女たちを解放してくれ」

少女は敵を前に、冷淡なくらい静かな声で言うと、剣を下ろしゆっくりと構えた。


しばらくの間静寂がその場を支配したが、またしても後方の男が怒声を上げる。

「こ、こいつは闇使いかもしれんがまだ子供だ!憶することはない!殺れ!」

ため息しか出てこないな・・しかも子供子供と先ほどから・・怒りで手加減できなくなりそうだ・・。

少女が身を低くして走り出そうとしたその時。


蹄の音・・しかも早い。これは上から・・?

ここにいる全員が聞き耳を立てる中、突然思いもよらぬ方向・・崖上から馬に乗った青年が現れ、少女の前方に降り立った。その金髪をなびかせた長身の青年は明らかに盗賊どもと様相が違う・・。


しかしこれは罠かもしれない、敵!?味方!?

敵だとしたら・・質が悪い、いや悪すぎる・・この人は・・。

剣を握る手に力が入いる。

青年は呆然とする盗賊どもと少女、そして後方の女性たちをぐるりと見やった。

「なるほどね、OK!把握した、大体あってたみたいだね」

ニヤリと微笑みを浮かべる。

何なんだこの人は・・。


少女が戸惑っている隙に青年は、少女と女性たちの間の地面に素早く大剣を抜き地面にいきなり叩きつけるように差し込んだ。

地面はひび割れ、あっという間に女性たちの周りをぐるりと囲んだ。

そしてそのひび割れから炎が噴き出し高さ2メートルちかくの結界もどきを作った。

「あの・・!これでは彼女たちがかえって危ない!」

少女が焦って提言する。

青年は少しあきれたように言葉を紡ぐ。

「君は見たところ闇使いだね。ならばわかるんじゃないか?・・いや、まぁ君の年齢ならこれから覚えることなのかな」

ん・・何か今引っかかる言葉を聞いてしまったような。

「俺が炎を操っている。彼女たちには熱く感じないように君にも害はない。・・ま、こんな美しい女性たちを拘束している輩どもには、地獄の炎が待っているかもしれないけどねー」

冗談なのかわからないが笑っている顔が妙に本気だ・・・。いや、絶対本気だ。


青年は炎を纏った大剣を地面から抜き、盗賊どもへ目を移すと、一撃で圧倒的な力を放ち吹き飛ばす。

ああ、はやり比べ物にならない・・。

「さぁて、とっとと片付けちまいますかね」これがマナの力の差。

少女も加勢するがその力の差は歴然だ。

彼の一振りで大勢の屈強な男たちが軽々となぎ倒されていく。

長身とはいえ、線は細いのにどこにそんな力があるのだろう。

ふとそんなことを考えていると青年の腕が少女の腰に手をまわし引き寄せた。

・・・な!?

「はーい、よそ見禁止ね」

その言葉と同時に何かが彼女の頬をかすめていった。

それは後方の木に数個刺さった。暗器だ!

不覚・・戦況を冷静に見てなかったばかりか助けられるなんて。

遠くから暗器を使った者に青年は容赦なく大剣を向け言い放った。

「炎よ、撃て!」その者らは慌てて逃走しようとしたが遅かった。

彼の大剣からは何かが飛び出し、彼らを貫いた。

炎の鳥のように・・見えた。まるで不死鳥のように美しい・・。

「女の子の顔に傷作ったら殺してたけど、今回は許すかな」

また余裕の笑み。でも目が笑ってない・・。


「ところで闇の姫君、名前は?」

こんな状況の中自己紹介・・!?しかもなんだかチャラい・・。

なんとなく答えなければ負けなような気がして、少女は答えた。

「エレナ」

「いいねぇ。かわいい名前・・っだ!」

ズサァァァァ!

言いながらまた一振りで5人ほどを勢いよく吹っ飛ばしている。

うわー人ってあんなに飛んでいくものなんだな・・。

「俺はアシュベル、近衛隊の隊長だ」

なるほど・・道理でお強いわけですね。いや、強いからこその隊長か。

エレナは首を振った。彼の迫力に飲み込まれている、比べるんじゃない。私には私の戦い方がある!


「あの男の制服!近衛隊だ!まずい。ずらかるぞ!」

「あれー逃げられると思ってるんだ?笑えるねぇ」

小バカにしたように口元に笑みを浮かべながら、青年が立ち止まる。

「ああ、逃げられるさ、まだ切り札があるからなぁ!」

男は顎で合図を送ると手下たちが掘っ立て小屋から、さるぐつわをされ縛られた女性一人を出してきた。

その喉にはナイフがつきつけられている。

まだ犠牲者はいたのか・・。

女性は何日か閉じ込められていたのだろう、泣いた形跡があるが目が生気を失っている。

抗うことを諦めてしまっているのだ。

ナイフを持った男は彼女の髪をつかみ後ろへ引きずっていく。

「追ってきたら、即この小娘を殺すからな!」

その時だった__女性がアシュベルを見た。そしてその虚ろな目にかすかだが光が宿った。

恐らく近衛隊の者だと分かったのだろう。

あの人を助けななければ・・・!


女性は今ようやく諦めていた希望を抱いたのだから。

エレナと盗賊どもの距離は30メートルほど。

勝算は・・・ある。

でもアシュベルが動くなら私の出番など・・・。

「あーあ、往生際の悪いやつらだなぁ。」

金髪の髪をかき上げながら、彼は焦るどころか興味を失っているようにすら見えた。

なに・・?この変化は。

エレナには意味が分からなかった。さっきの女性の瞳を見ていなかったの?

何故そんな悠長にしていられるの?


・・・違う。

これは私がはじめたことだ。

今になって彼に頼ろうなんてまだまだ修行が足りないな。

自身でできることは最後まできちんとやり通そう。



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