第2話競技会
ゾラは夜更けのベルリンに着いた。宿舎となるホテルですぐに休む。翌朝、競技会を開催する歓喜力行団の役員が来て、競技会の説明を受ける。競技会はジャマーとの交戦を想定したものがメインで、日程は明後日から予備日を入れて5日間。その翌日は慰労会で、帰国はその翌日となる事や、選手は大方今日中に宿舎に到着するだろうとの説明があった。なお会場はベルリン郊外の陸軍演習場で開催され、総統閣下も観覧するとの事であった。早い話ドイツの力を全世界に宣伝するという形で、ドイツの野望を世の中に知らしめる為であろうとゾラは思った。
特にする事もなくゾラはロビーで読書をしながらくつろいでいた。誰か来たらしく玄関の方に動きがある。すぐに役員が来て写真撮影をお願いされたので快諾する。しかしこれから何度も写真撮影を繰り返す事になろうとはゾラは思ってもみなかった。
現れたのはドイツ代表マルガレータ ゲアリンテ キルステン中尉だった。ゾラとマルガレータは握手を交わす。フラッシュが眩しい。新聞記者達はマルガレータの方に行ったのでゾラはまたヒマになった。ただロビーにいないといけないのはもどかしかった。
暫くするとマルガレータがロビーに現れる。彼女も色々注文がつけられているらしい。
「隣、いいかな?」
「ええ。どうぞ」
ゾラが答えるとマルガレータはドカとソファーに座る。
「僕はマルガレータ ゲアリンテ キルステン。
「こちらこそ。私はゾラ バルチーコバァ。チェコスロバキア陸軍の大尉よ。あなた戦闘機乗りなの?」
「いや、ぼくは地上要員さ」
「ふうん」
「ベルリンにはいつ着いたのかい?」
「昨夜、遅くよ」
たわいない会話は意外と飽きない。午前中は他に誰も来なかったので昼食も二人でとる。ゾラは肉料理とビールを注文する。マルガレータもソーセージとザワークラウトにビールを注文する。二人がビールを飲んでいると役員が飛んで来て「その一杯だけにしてください」と釘を刺されてしまった。マルガレータはなにかニヤニヤしている。そのおかげか二人は意気投合するようになった。
午後は最初ヒマだったが、各国から機関銃娘が到着したので忙しくなった。夜には歓迎のレセプションが行われ、政府高官や各国大使なども参列していた。
翌日は会場の下見兼練習日である。設営は既に終わっていて、仮設ながらも整っている。一通りの見学を終え、午後からは機関銃娘達は簡単な練習を行う。各々装備を装着して練習に励む。しかし空模様は夕方頃から怪しくなって来た。
「これは、明日は嵐かもね」
マルガレータはポツリと独り言を言った。
マルガレータの予想通り雷鳴轟く嵐となった。天気予報によると荒天は暫く続く見込みとの事だった。開会式や競技も中止となり機関銃娘達は宿舎で待機となった。部屋にいてもヒマなのでみんなロビーに集まってしまう。
「はあ。ヒマだなあ」
ゾラは憂鬱そうに窓の外を眺める。バニーがカードゲームをやろうと言って来たが、フィーネが賭け事禁止だと告げると一気にやる気はしぼんでしまった。
「バニーさんはギャンブルがお好きですの?」
フィーネはバニーに質問をする。
「好きまではいかないけれど気分がスカッとしそうだからな。やった事はないけど」
「なんだぁ~」
みんなバニーの回答に力が抜ける。その後はたわいない会話に花が咲く。その翌日も荒天でお流れに。また機関銃娘達はたわいない会話に花を咲かせる。しかし会場には土砂降りのせいで誰にも気づかれずにジャマーの魔の手が迫っていた。
3日目の朝は晴天だった。役員からは会場のコンデションが整え次第、射撃競技を始めるとの説明がなされた。機関銃娘達もやる気満々である。朝食を終え、部屋に戻ろうとした時だった。なにやら玄関の方が騒がしい。親衛隊や警備の動きも慌しい。役員が血相を変えて機関銃娘達の所へすっ飛んで来た。
「会場にジャマーの巣ができていて、関係者が襲われた様です」
「それは私達の出番ですけど?」
ゾラは役員に対応方を尋ねる。
「キルステン中尉はともかく、あなた方は外国の機関銃娘ですし…」
役員は歯切れの悪い言い方をする。
「とにかく『総統の忠臣』に知らせないと…!」
役員がテンパっている所に長身の親衛隊将官がやって来た。(うわ!金髪の野獣だ。)マルガレータは身構える。
「その必要はない。これは総統閣下の要請である。ジャマーに関しては君達機関銃娘に委ねるしかない。他の我が国の機関銃娘達はベルリンからはるか遠方にいるのでね」
「どなたが指揮を執りますか?」
ゾラは金髪の野獣に訊ねる。
「それならば君が執り給え。ゾラ バルチーコバァ大尉。皆のファイルは確認させてもらったよ」
「それなら話が早い。早速現場に向かいましょう」
一同、宿舎から会場へと大急ぎで向かう。
会場に着くとただちに機関銃娘達は装備を装着して戦闘モードに入る。
「装備装着!」
機関銃娘達が口々に唱えると、不思議な光が閃光となって機関銃娘達を包み込む。
「噂には聞いていたが、初めて見た…」
金髪の野獣達は機関銃娘達の変身を目の当たりにする。その光景を見るのはどこか罪悪感を感じ得ざるを得なかった。眩しすぎて直視できない。余談ながら極秘に動画撮影をしていたが、光だけで、何も写っていなかったと言う。
変身と言っても機関銃娘達の姿は変わらず、兵器や装備が単に追加されただけであった。
「ジャマーの巣がある事以外、状況不明なので単独行動は避け、三人一組で行動しましょうか」
ゾラは他の機関銃娘達に提案する。組み合わせは、ゾラ、フィーネ、サーニャの第1組、マルガレータ、名子、スザンナの第2組、エイミー、アリーヌ、バニーの第3組で落ち着いた。周辺を捜索しつつ、ジャマーの巣を目指す事にした。長身の親衛隊将官は第2組に同行する。
「では第1組は左翼、第2組は中央、第3組は右翼に展開。親衛隊のみなさんは各組の後方にお願いします。各自通信機のテストをお願い」
「了解!」
通信機のテストも完了し、各組も配置に就いた。
「出撃!」
機関銃娘達はジャマーの巣に向かって行動を開始した。
それから暫く進むとジャマーの巣が確認できた。できたばかりで巣はあまり大きくなく、ジャマーの数も多くない。ただ一つだけとは限らないので、周辺の捜索を怠る事はできない。第2組を残して捜索を続行する。ゾラ達は発見しなかったが、第3組が巣を見つけたのだ。規模も大きいようだ。ゾラは第3組に警戒監視を指示すると第1組と第2組で小さい方の巣を挟撃する事にした。ゾラは作戦をマルガレータとエイミーに伝える。
「基本的には第2組の火力で制圧。第1組は撃ち漏らしを担当するわ。第3組はジャマーの合流を警戒せよ。但し単独で巣を攻撃しない事」
「了解!」
マルガレータとエイミーは作戦を了承する。
「作戦開始」
ゾラの声で、作戦開始が告げられると、マルガレータ達第2組は射撃を開始する。まず名子とスザンナが弾幕を張り、マルガレータが巣に接近する。
ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!
ジャマーは次々と倒されて消滅してゆく。
ドカーン!
最後にマルガレータが柄付手榴弾を巣に投げ入れて制圧は完了した。逃亡したジャマーもいなかった。
「制圧完了。逃亡ジャマーはなし」
「了解。こちらも逃亡なしを確認。第3組と合流するわよ」
「了解」
第1組と第2組は合流を急ぐ。検証は親衛隊に任せる。
数分で第3組と合流する。
「ゾラさん。こちらは変化なしです」
エイミーはゾラに報告する。
「了解。思っていたよりも大きいわね」
ゾラは目を見張る。一軒家大の大きさである。やや遅れて第2組も合流した。
「ずいぶん成長しているね‥。ドイツでは珍しい大きさかな?」
マルガレータも目を丸くしている。
「ジャマーは大きくないようね」
アリーヌはジャマーの大きさを指摘する。
「大ボスがいると思っていた方がいいわね」
サーニャは冷静に状況を推測する。そんな時名子は眼鏡を取り出す。
「ちょっと観察してみますね」
そう言って眼鏡をかけて巣の状況を確認する。みんな名子に注視する。暫く観察していた名子は眼鏡をはずしてみんなに告げる。
「数は巣の大きさに比べると少ないですが、大ボスが一体いますね。数の割には中小ボスがあまりいないので、主力はいないみたいですね。巣もできたてですし」
「中小ボスはどの位かしら?」
ゾラは名子に質問する。
「三体です」
ゾラは名子の回答を聞いて思案する。
「ここは装備の種類別に組み分けしましょう。第1組は私とエイミー、アリーヌ。第2組はフィーネ、スザンナ、名子、バニー。リーダーはフィーネ、よろしく。第3組は装弾数と火力の多いマルガレータとサーニャで。サーニャが指揮を執って。基本戦術は第2組の火力でジャマーの動きを封印。軽機関銃組が撃ち漏らしを掃討。最終的な巣の破壊は軽機関銃組の手榴弾で行います。なにか質問は?」
誰も挙手をしない。
「では、行動開始」
ゾラは双眼鏡でそれぞれ配置に就いたのを確認する。
「軽機関銃組、前進開始」
ゾラの指示で軽機関銃組は巣に近づく。まだジャマーは気が付いていない。
「よし、止まれ」
軽機関銃組は前進をやめ、身を隠す。
「第2組射撃開始せよ」
「了解」
ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!
ドドドドドドドドドドッ!ドドドドドドドドドドッ!ドドドドドドドドドドッ!
フィーネ達は射撃を開始した。ジャマーが慌てて巣から飛び出して来るが、次々と倒される。ゾラが軽機関銃組に突撃をかけようと思った時、ジャマーの主力がマルガレータ達の後方に現れた。
「サーニャ!後ろにジャマーの別動隊よ!第2組に合流して!」
「了解!」
マルガレータとサーニャは移動するがジャマーに発見捕捉されてしまった。第3組の二人は必死に応戦する。
「バニー!サーニャ達を援護して!」
「了解!」
しかし支えきれない様だったので第2組の射撃を別動隊の方に振り分ける。
「クソっ数が多過ぎる!」
マルガレータは「火力制圧」を発動して二廷のMG34をぶっ放す。銃身はもう真っ赤だ。
「銃身交換しないと!」
サーニャは叫ぶが、マルガレータは無視する。しかし遂に暴発。万事休すかと思われたが、フィーネが「阻止弾幕」を発動して二人を救出する。
「はあ~。助かった」
マルガレータはへなへなと座り込む。サーニャは顔を真っ赤にして怒っている。
「ここは私達に任せて、あなた達はゾラ達に加勢して。」
フィーネはニコニコしながら言う。
「分かった。フィーネ。ダンケ」
マルガレータはそう言うとサーニャと共にゾラの所へ向かった。
ゾラ達は巣を手榴弾の集中投擲で破壊したものの、大ボスの抵抗に手ずこっていた。そこにサーニャ達が加勢した。サーニャはDP28をマルガレータに託すと「シベリアの溜息」を発動する。たちまち大ボスは凍りついて動かなくなっていた。サーニャは気力を使い果たして倒れてしまう。マルガレータはDP28を投げ捨ててサーニャを抱き上げる。
「は、早く撃って…!」
そう言うとサーニャは気を失ってしまった。
「よし!今よ!」
ゾラ達は集中射撃を大ボスに浴びせる。しかしなかなか消滅しない。ゾラは弾薬を徹甲弾から硬芯弾に変更して急所を狙撃。今度は一発で消滅させた。
「なんとか仕留めたわね」
みんな息が上がっている。そこにフィーネから通信が入る。
「こっちも綺麗に仕上がったわよ」
「こちらもジャマーを全て始末したわ。念の為捜索をお願い」
「了解」
ゾラはサーニャとマルガレータを宿舎に戻す。後は残りで付近の捜索をする。サーニャは夕方に回復。マルガレータは金髪の野獣に小言を言われただけで、新しいMG34を支給された。
結局競技会は中止され、残りの日程はジャマーの捜索に費やされた。しかし悪い事だけではなかった。作戦や捜索活動を通じて機関銃娘同士の交流は深まったからだ。この事は今後の世界における大きな動きにつながるのであった。
つづく
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