第3話波紋と評価

 ベルリンでの機関銃娘達の活躍は全世界に宣伝された。勿論それはドイツの目論見であったが、各国のトップエース機関銃娘達の連携した作戦行動は、各国の軍人や政治家、学者が注目する出来事でもあった。その事は当事者であるゾラも気が付いていた。対ジャマー国際組織を立ち上げるべきだと。帰国前に機関銃娘達の連絡先を交換したのもその為だった。ゾラが国境を越えた連携が必要だと自分の考えを訴えるとみんな同じ経験をしたのか、賛同してくれた。特に反応を示したのはスイス出身のフィーネだった。これはゾラにとっては意外だったが。プラハに戻る汽車の中でゾラは構想を練るのに夢中だった。

 プラハに到着するとゾラはその足でプラハ城に報告の為に向かった。大統領も首相もゾラの報告を待ちわびていた。ゾラは報告を済ますと、大統領と首相に相談を持ち掛ける。大統領は人払いをさせると相談の内容を尋ねた。

「ゾラ君。相談とはなにかね?」

「はい。大統領閣下。私は機関銃娘達による国際機関を創るべきだと考えています」

「ふむ良いアイデアだが、我が国だけではどうにもならんなぁ」

 大統領は腕組をする。

「政府は提唱する必要はありません」

「ほう?」

 大統領も首相も意外そうな表情をする。

「ドイツではマスコミを使って政府の考えを国民に宣伝していました。この方が政府が命令するよりも国民に深く浸透します。そこで新聞に私の論文を掲載してもらって、世の中に広め、世論を形成します。やがて政治家も同調してきます。国民が求めているのなら政府も考えよう、隣の国が検討するなら我が国も考えようという風に話を乗せていくのです。それに各国にも機関銃娘がいますからマスコミもコメントを聞きに来るでしょう。そこが狙いです。実は手筈を調えてあります」

「ふむふむ。ドイツやソ連の様に独裁体制の所はどうするのかな?」

「そういう国は国外にいる人間や権力者に近い人間から浸透させます。最初のうちは無視するでしょうが、それも時間の問題になってきます。更に国際的圧力が高まれば国家として否応いやおうにも応じざるを得ない」

「他にメリットは?」

 首相が畳み掛ける。

「外国と戦争をする根拠がなくなる訳ではありませんが、機運がしぼんだり、起こしにくくする国際情勢にする事はできると思います」

「ふむ、分かった。この件は政府で協議する故、ゾラ君は論文の構想を良く練っていて欲しい」

「分かりました」


 数日後、論文掲載の許可が大統領より下りてゾラは論文の執筆に取り掛かる。時折ジャマー討伐の出動があったものの、数日で書き終えた。大統領の最終承認を得て、意見広告という形で新聞に掲載された。この意見広告はチェコスロバキア国内だけでなく、諸外国にも大きな反響が巻き起こった。これはドイツやソ連も例外ではなかった。

「機関銃娘の国境を越えた活動が世界を救う」と題する論文で、既に人類はジャマーとの戦争を強いられているが、現在の各国ごとに機関銃娘が個別に奮闘しても対処できない現状を踏まえ、諸国の政府や軍隊、法曹界は各国で活動している機関銃娘の活動環境について、自国民や経済活動の損害抑制の観点から議論すべきであるという内容であった。そして、試験的に各国のトップエースを集めて国境に関係なく対ジャマー活動を行う国際連合部隊の創設を訴えるというものであった。

 この意見広告は諸政府や国民にとって新鮮であった。新しい事を提案するのは、大抵社会や政府批判、胡散臭い作り話が混じっているのが世の常であったからだ。しかし、この論文は機関銃娘が自身の体験に基づいて書かれたものであり、結果もしっかり明らかにされていたのである。そうした真摯な姿勢は人々の共鳴を得た。そして、各国のトップエース達も積極的に取材を受け、自らの体験を語った上で、ゾラの意見に賛辞を贈ったのである。こうした記事は各国で大々的に取り上げられて、密着取材記事も出回る事態となった。勿論ラジオ番組も垂れ流し放送である。

 ここまでくれば、各国政府も重い腰を上げざるを得なくなる。必然的に感触を探り合う。積極的に賛同する国、様子見の国。消極的もしくは拒否反応を示す国などに分かれて来る。どの国がどの立場を表明するか。某国では賭けが成立する程人々の関心は高まっていた。

 積極的に賛同する国は、チェコスロバキアだった。これはある意味順当である。次いでイギリス、イタリアだった。そして人々の予想を裏切ったのはスイスとソ連だった。スイスは有名な永世中立国であり、どこともつるまない国だったからである。そしてソ連。これは国土が広大な為、さすがに鉄の男も承認した様だと、人々は囁き合った。

 様子見の国は日本、フランスで、消極的な国はドイツとアメリカであった。日本とフランスではそれ程議論が高じる事はなかったが、ドイツとアメリカでは大論争に発展して政府を驚かせた。アメリカでは長年モンロー主義がはびこっていたが、喜劇王が失望を表明するなど多くの国民は野蛮な独裁国家と同レベルなのかとバッシングが起きて政治問題に発展。慌てて大統領が賛同を表明する事態となった。

 ドイツでは政府高官同士が対立していた。総統が自らの意見を表明していなかったからだが、政権内の権力闘争が激化していた。当初は一国主義派が優勢であった。が、金髪の野獣が賛同すべきだと発言すると状況が一変。見事な手のひら返しでドイツも最後に賛同した。

 そこで国際会議を開催する運びとなったが、今度はどこで開催するかが問題となった。水面下交渉の結果、スイスのジュネーブで開かれる事になった。

 しかし、全体の方向性を決める本会議は「世界に誇る我がドイツの主導で国際連合部隊を運用すべき」と言うドイツの主張が各国の反発を招き、紛糾していた。マスコミの論調も「ドイツ、世界に宣戦布告」などど書かれる始末であった。一方軍人、官僚、法律家で構成された実務者会議では機関銃娘達の意見を基に議論が進んでおり、難航が予想された経費負担や法的責任のあり方などもあっさりと議論がまとまっていた。結局ボヘミア人伍長が代表者を差し替えて仕切り直しを各国に提案して、騒動は一旦治まった。

 仕切り直し後も各国による主導権争いの熱演が続いた。それに業を煮やしたフイーネはスイスの新聞に緊急寄稿をする。「カジノに興じている人達」というお題目であった。主導権争いに熱を上げている各国代表をカジノで遊んでいる人間に例えていて、チップの原資は国民から吸い取った血税であると、痛烈に批判したのである。この記事は新聞各紙に転載されて大問題となった。ゾラはワルシャワでの任務中にこのニュースを知ったが、スイス政府が特に声明を出していないので、フイーネが根回しをした仕込みだろうと判断した。

 スイス代表は各国代表から吊し上げを喰らったが、平然としてこう言い放った。「諸君の言いたい事はそれだけか?スイスは国際連合部隊の共同管理を提案する‼」

 本会議場はシーンと静まり返った。暫くして拍手が起きた。米英仏とソ連の代表達である。他の各国代表達も拍手をする。ドイツもこれに倣う。こうして共同管理案は満場一致で採択されたのだった。また、各国の影響力行使を避ける為、国際連合部隊を管理する共同管理委員会の設置も同時進行で決まり、こちらはベルンに設置された。また国際連合部隊に関する権限を共同管理委員会に一本化された。委員会の人選もすぐに行われた。委員長はソ連から赤いナポレオンが就任。副委員長はドイツからマントイフェル男爵が選ばれた。

 

 共同管理委員会はすぐに会合を開き、国際連合部隊の活動拠点について話し合われ、複数の国に同規模の拠点を設置しで融通性を持たせることにした。また機関銃娘が歩兵の形態である為、拠点は兵站機能を含めて小規模で良い事、展開能力は各国に最優先かつ最良の手段を提供させる事、兵器や装備、弾薬は所属国の責任と負担といった実務面が取り決められた。同時に通関や出入国の規則、国際連合部隊に所属する機関銃娘に関する規則、指揮命令系統に関する規則など、規則類も制定された。こうして国際連合部隊が活動する為の環境整備が強力に推進された。



 そしてベルンからトップエースたる機関銃娘に召集が掛けられたのだ。


                              つづく

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