第21話 その優等生、友人思いにつき

「あ、ニーナ、これなんてどう?」

「え、あ、う、うん。いいと思う」

「……ちょっと、さっきからどうしたの? 少し変よ? 具合でも悪い?」

「だ、大丈夫! あんまり、こういう所に来たことなくて……あはは」

「? 何時も、私達と一緒に来てるじゃない。変なニーナ」


 エリナが怪訝そうな表情をしながらも、綺麗なリボンを棚へ戻していきます。

 ……うぅ、パメラ。籤で負けたのは私だけど、これは少し荷が重いかも。気を付けないと

 何時も一緒にいるもう一人の親友に心の中で文句を言いつつ、私も棚でプレゼントを探す振りをします。


「だけど、パメラは残念だったわね。いきなり、御実家から呼び出しを受けるなんて。あ、でも、良い事なのか。お父様の勘当が解けた、ってことだものね」

「う、うん――これなんかどうかなぁ。似合うと思うんだけど」

「……ちょっと地味過ぎない? 孤児院の子達の、進学記念なんでしょう? なら、もっと可愛らしいのがいいわよ」

「そ、そっかなぁ……あの子達って、私と同じでそこまで顔が整ってるわけじゃないから」

「こーら。ニーナ、また悪い癖が出てるわよ? 貴女は可愛いんだから。この前、アレックス様もそう仰ってたし」

「ア、アレックス様が!?」

「ええ。車の中で、貴方とパメラの事、褒めてたわよ? 勉強も出来るし、性格もいいし、可愛い、って」

「そ、そんな事……」


 心の中で花が舞います。

 ——嬉しい。とってもとっても嬉しいです。

 アレックス様は天使様かと思う位にお優しい方なので、きっと、パメラと目の前にいるエリナの事を褒める際、私の事にも触れてくれただけだとは分かっていますけど……それでもやっぱり、お慕いしている方から褒められると浮き浮きしてしまいます。


「ニーナは」

「あ、うん! 何?」


「——アレックス様のことが、その、好き、なのよね?」


「!」


 まじまじ、とエリナの顔を見てしまいました。

 親友の瞳が何処となく不安気に揺れています。

 ……パメラが最近、よくこぼす『エリナはとっとと素直になればいいのよ。それで、万事解決じゃない』がよく分かります。

 

「エリナ」

「いいの。私のことは気にしないで。あくまでもあの方とは家の問題があって婚約者になってるだけだから。大学に通っている内はそのままかもしれないけど卒業したら……私とは関係なくなるわ。だからほんとのほんとに気にしないで。ニーナが……あの方とお付き合いをしたい、と言うなら……私、私は、その、応援、する……から」

「エリナ」

「…………」


 何時もはしっかりしていて大人びている親友が、顔を俯かせつつ、ちらちら、と私の表情を窺っています。

 ……か、可愛い!

 自然に抱きしめてしまいました。エリナって、抱き心地が凄くいいんです!


「もう。不安そうな顔して……。そんな事を言わないで。確かに私はアレックス様をお慕いしているけれど――エリナになら譲れる。これは嘘じゃないよ」

「……べ、別に私はそんなつもりで言ったんじゃ」

「あはは。エリナはアレックス様の事になると、とっても分かりやすいよね。今日も、朝からずっと上の空だったし」

「そ、そんな事」

「あるよぉ。じゃ、お昼に何を食べた?」

「…………」

「自分が食べた物も思い出せない位、気にしてるんだから、もっと素直になればいいのに。『私、凄く気にしてます! どうして、お迎えに来てくれなかったんですか!』って」

「……言えないわ、そんなの。だって、それじゃまるで」


 私があの小悪党さんを大好きみたいじゃない、という囁き。

 はぁぁ……私の親友、本当にっ、可愛すぎますっ!

 アレックス様も、エリナの事を大切にしてくれていますし、御似合いだと思うんです!

 私はいいんです。今の状態が望外も望外。これ以上を望むなんて……神様に怒られちゃいますから。

 それに……お慕いしてはいますが、一日、迎えに来られなかっただけで、ここまで不安定になる程、私はまだあの方に心を奪われていません。

 正直、少しだけ羨ましいです。私もこんな恋が出来るのかなぁ……。

 

「……ニーナ、苦しい。離して」

「エリナが素直に、明日、アレックス様とお話するわ、って言ってくれれば即離れるよ?」

「だ、だから、そんな事はないのよ。ただ……」

「ただ?」

「ここ数ヶ月、朝夕は何時も一緒にいたから、戸惑ってるだけで」

「ふ~ん♪」

「…………ニーナ、今日は何だか少し意地悪ね」

「だって、ねぇ? エリナが可愛すぎるからいけないと思う!」


 またしても、ぎゅーっ、と抱きしめます。

 はぁ、こんなに幸せでいいんでしょうか?

 勿論、孤児院時代も決して不幸せではなかってですけど、学校に行けて、エリナとパメラに出会ってから、私は毎日が楽しくて仕方ありません。

 二人共、偉い大貴族様の娘さんですから、本来なら私の人生とは交わらなかった子達。でも今は、こうして仲良しです。

 それもこれも――。


「全部、天使様の御蔭ですね。感謝しないと」

「天使様?」

「あ、こっちの話。さ、プレゼント選ぼっ! パメラにも何かお土産を買って帰らないと。きっと、あの子、今頃、私に文句を言ってる筈だし」

「? どうして、パメラがニーナに文句を言うの??」

「それは、勿論、ア……エリナをこうして独占してるから♪」

「……ニーナ、私に何か隠し事をしてない?」

「し、してないよ。や、やだなぁ、エリナ。私は嘘なんかつけないよー。あは、あはは」


 危ない危ない。パメラのことです。きっと、私がバラしちゃうと思っている筈。でも、今日は大丈夫です。幾ら私でも、大恩ある御方と親友に関わる事で、ヘマはしません!

 だって、私は二人とも大好きですから。

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