第8話「上代先輩と熱い身体と酒」

「ねぇ……」


 上代先輩の息遣いは荒い。興奮しているからだろう。俺だってそうだ。先輩の熱をすぐ近くで感じている。

 先輩に触れて。先輩を舐めて。先輩に酔っている。

 身体が熱い。大量の汗がその証。身体を重ねるべく、じっくりと、ゆっくりと、互いに高めあっている。

 唇を舐める。腕を舐める。首を。胸、腹、それから。

 甘い空気が充満している。酩酊、愛情、目が回りそう。優しく、時には乱暴に、先輩に覆いかぶさる。酔う、何度目かも分からない唾液の交換。抱擁。俺と先輩の境界が混ざり合う。溶け合って、ひとつになるような感覚。


「…………。こんなときに言うのもどうかと思うんだけど……」


 俺を受け入れる準備はできているようだった。もう我慢できなかった。愛しい先輩との最後の思い出を作ろうと、俺はゆっくりと触れさせた。


「何ですか?」

「多分だけど、手の感覚、微妙に戻ってる」


 俺は先輩の手を握った。


「いや、トウくんが触って分かるわけないから」


 先輩の感覚が戻っている。何故と尋ねたが、理由は分からないという。さらに言えば、根拠もなく気のせいかもしれないとのことだった。

 だが、それでも良かった。

 どんな僅かな可能性でも、俺は希望を捨てたくなかった。

 上代先輩と離れたくなかった。


「何か変わったことしましたっけ?」

「今してる最中だけども……」


 恥ずかしそうに答える先輩。とてもかわいい。かわいいではない。

 愛を確かめる行為で人間としての生が取り戻せる、という意見はさすがに信じがたいものの、それ以外になさそうなのも事実だ。


「分かりました」

「えっ、何が分かったって……っええ!」


 俺は先輩の脚を抱えた。


「一晩中ずっとしましょう。それで明日の朝を迎えられたら、俺たちの勝ちです」

「急に顔が冷静なのちょっと怖いんだけど」

「大丈夫です。一人だと四回くらいはいけます」

「私が何を心配していると思ったの? ねえ?」

「じゃ、覚悟して下さいね」


「ちょっと!」なんて言葉は、唇を押し付けて黙らせた。

 そして────

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