第3話「上代先輩と唾液を欲しがる変態と酒」
考えなしに唾液をくれと言ったわけではない。
これは上代先輩が日本酒であることを知るための手段であり、決して俺は先輩の体液を欲しがる変態ではないのだ。
「意図は分かったけどさ。ここ昼間の学食だよ」
呆れ顔の先輩。
酒は液体だ。人間の形をしたものから出てくる液体といえば、唾液や汗、その他諸々。上代先輩が日本酒だというのならば、きっとそれらが日本酒と化しているに違いない、と俺は考えた。仮に唾液が日本酒になっていて、先輩自身が酔わないのはおそらく日本酒には酔うという概念が適用されないからだろう。
「でも、確認したいじゃないですか。思いついたら」
「そうだね。私も気になってきた」
二人の意見が一致したところで、確認方法だ。先輩は「でもなあ、直接はちょっとなあ、付き合ってもいないのになあ」と微妙に困ったように頬を押さえている。
「紙コップに唾液溜めて渡して下さいよ。それ飲むんで」
「情緒もなにもあったもんじゃないな。トウくん、君って私のことどう思ってるの?」
「酔っぱらいですかね」
出会ってから今まで、上代先輩の印象は酒を飲んでいる人というものから一度も変わらない。「そんなに私って酒の印象しかないのか……」と表情を曇らせていた先輩だったが、いや、そんなはずはないと俺を見つめる。
「外見は?」
「美人だと思います」
いつも酔っぱらっているくせに、髪や服からは清潔感が感じられる。
「内面は?」
「可愛いと思います」
先輩が常飲している日本酒は、ほとんどが甘口のものなのだ。非常に可愛らしい。
「改めて聞くけど、トウくんって私のことどう思ってる?」
「酔っ払いですかね」
上代先輩がおもむろに食堂のテーブルを殴った。
「酔いが回ると暴れるんでしたっけ?」
「誰のせいだと思う?」
憎らしげに俺を睨みつけてきている。若干怖い。
この会話を続けていても先輩を苛立たせるだけだと判断し、紙コップを渡す。唾液を溜めてもらおうと思ったのだが、上代先輩は首を振ってコップをどかした。
「要らない」
「じゃ、どうするんです?」
「こうすればいい」
先輩は人差し指を立てると、口に含んだ。指に舌を這わせる。唾液をたっぷりとつける。流れ落ちそうなほど、滴り落ちそうなほどに。
その指を、俺の目の前に突きつけた。
そして言った。
「舐めろ」
恐ろしく魅力的な言葉を。
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