はじめに


 室生犀星の「小景異情」は、『叙情小曲集』に収録された一編である。


 詩歌の類を論じるにあたっては本文がなければままならないため、ここでは手元の岩波より全文を引用させていただいた。青空文庫からの引用も考えたが、それでも岩波を選んだのは、どうせならば慣れ親しんだ方を底本に用いたいという理由があってのことだ。


 自分にとっては思い出深い作品である――と言うのも、これが恩師より手解きを受けた作品であり、自分が本格的に読解した初めての詩でもあるからである。そのような一編を今になって再び解釈しようというのは、あれから自分の読みは変わったのだろうか、という感傷があってのことに違いない。


 などと言う個人的な事情はさて置き、「小景異情」を語るにあたっての懸念は、自分が先生の解釈をそのまま論じてしまわないかという点だ。よって今回に関しては枝葉を排し、基礎的な解説と最低限の解釈に留めるつもりである。言わば詩歌入門編である。


 最後に、お読みいただくに際して。


 筆者の願うところとしては、ひとまずご自身で作品を眺めていただきたい。そこで感じたことを私の解説に引き摺られないように持っていていただきたい。その上でお読みいただき、どこかで解釈の違いが出てくることがあるとても、それはそれで本望である。


 あるいは拙文が作品の橋渡しになるのなら、それは勿論存外の喜びである。

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