「閉鎖」について


 2017年には映画化もされた中村文則の小説、『悪と仮面のルール』には、「幸福とは、閉鎖だ」という一文が出てくる。


 ……初っ端から別作品で恐縮だが、『わたしを離さないで』を解釈するには打って付けの文であると思われるので、引用させていただいた次第である。と言うのも、この「閉鎖」が意味するところが、「各人にとって不都合な現実の排斥」であるからだ。


 私たちが何気なく生活している間にも、世界では様々な問題が起こっていることは言うまでもない。


 たとえば貧困問題――人種差別――数え上げればきりがないだろう。しかし、それら全てを常に直視し続けられる人間は少数である。多くの人はそんな現実から目を背けることで、自らの安寧に甘んじている。これがいわゆる「閉鎖」である。


『わたしを離さないで』においても、二つの「閉鎖」が描かれている(施設そのものにおける文字通りの閉鎖については、これに数えない)。一つは主人公たちの境遇に対する外界の閉鎖であり、もう一つは後述する、主人公たちの内面におけるそれである。


 この内、後者の閉鎖に関しては必ずしも上記の意味合いで用いられるべきものではないであろうが、これら二つの閉鎖が作品の要点を占めていることは明らかだと思われる。


 よって本論は、それぞれの閉鎖について章を分けて考察し、簡潔にではあるが主題を論じるものである。

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