廃社員はデスクの上で
春風月葉
廃社員はデスクの上で
寝に帰るだけの家、冷えきった夕飯、寝ついている妻と子、寝ているだけの休日、そしてまた出勤する。
ギリギリだったのだ。
心も身体も本当に。
妻と子の顔を見たのはいつが最後だっただろうか。
この頃は残業も続き、帰ることすらできていない。
そういえば今日は何曜日だっただろう。
おかしいな、ふっと意識が飛ぶ。
寝不足かな?最近寝れていなかったからな。
そんなことを考えながら目を閉じた。
まだ仕事が残っているのに…。
同僚が名前を呼んでいる。
妻や子の声も聞こえる。
目を開くとそこは白い部屋だった。
カーテンによって隔離されたベッドに消毒液の独特の香り、自分が病院の一室にいることはすぐにわかった。
上司と妻が何やら話している。
同僚が心配そうにこちらを見ている。
大丈夫、少し休めばすぐ仕事に戻れるから。
私は彼女にそう言った。
彼女は辛そうな表情で待っていますとだけ言った。
会社の一団がいなくなると、妻はもう無理をしないでくれと私に言った。
わかっている。
大丈夫。
その言葉をまるで暗示のように繰り返した。
翌週の土曜日、朝の社内デスクで眠るように私は死んだ。
どうして最後まで働こうとしたのだろう。
いや、きっと答えはわかっていた。
私はとうの昔に働く以外の生き方を忘れてしまったのだろう。
廃社員はデスクの上で 春風月葉 @HarukazeTsukiha
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